第108話 剣の道④
『聖都騎士団御用達クレイオン道場』
そう看板には書かれていた。いくつかある聖都騎士団御用達の道場の何でも一、二を争う道場だった。この道場ではリード=フェリエスが一時期所属していた、というのが最近の自慢だった。道場主のプラクト=クレイオンも、リードを弟子と言って吹聴しているし、リードも否定はしなかった。ただ本当の所はリードは道場を修行の場として使わせてもらっていただけでクレイオンの教えを請うたことは一度もなかった。
但し、それはクレイオン道場が弱いという事ではない。リードが教えを請いたいと思うほどではなかった、というだけだ。マゼランで修業している剣士たちの中で、クレイオン道場は確実に上位の実力を備えてはいたのだ。
ロックたちが訪ねると道場は活気で溢れていた。今の時間は強い剣士たちの修行の時間帯ではないようだ。初心者とは言わないが、ロックが見てもまだまだ修行が足りない者たちが多い。その中で一際目立つ剣士が教えている。道場の師範か師範代だろうか。
「すいません、見学させてもらっていいですか?」
ロックが声を掛けたが、誰も反応してくれない。聖都騎士団はシャロン公国の貴族の子弟が多い。正式に騎士団に入るには当然身元の確認も必要で、一般の修行者が入れる騎士団ではないのだ。そしてこの道場は聖都騎士団御用達なので部外者が突然入門してくることなど在り得なかった。普段は誰も見学になど来ないのだ。
「すんませーん。見学させてもらえませんかー。」
ロックが焦れて大声で叫ぶ。数人がこちらを向いたが、やはり誰も対応はしてくれなかった。
「ここは見学を許していないんだよ。」
突然後ろから声がした。
「悪いですね、ここは聖都騎士団員か騎士団に入る見込みの者しか入れないから見学して入門する者は居ないんですよ。」
一目で一門の剣士だと知れる、ロックたちとはそれほど歳も離れていないの青年がそこに立っていた。ロックもルークも、声を掛けられるまでその存在を認識できなかった。相当な使い手だ。
「そうか、それは残念だな。俺は聖都騎士団に入る気がないからなぁ。」
その青年はロックの言葉に少し引っかかったようだ。
「入る気がない?入れるけど、その気がない、と言っているように聞こえますが。」
「そうだな。俺が入ると言えば入れるんじゃないかな。」
青年は怪訝な表情を浮かべる。そう易々と入れるわけがないのだ。
「あなたは一体なにものですか?」
「俺はロック、ロック=レパード。聖都騎士団の副団長は俺の父親だから普通は聖都騎士団に入れと言われるだろうな。まあ、言われても断った筈だが。」
「バーノン=レパード副団長のご子息でしたか。それは失礼しました。正式に入門を申し出ていただければ、すぐに許可も出るでしょう。確か御前試合で優勝されたとか。」
「そうだな。それはそうと君も相当な使い手の様だけど何者なんだ?」
「申し遅れました。私は当道場の道場主であるプラクト=クレイオンの孫で師範代を務めておりますマシュ=クレイオンと申します。以後お見知りおきを。」
「マシュ=クレイオンか。師範代という事ならここに入門したら君と立合えるとなると少し興味が出て来た。ルーク、どうする?とりあえず、ここでもいいかもな。」
ここでも、というロックの言葉にマシュの眉が少し反応したのをルークは見逃さなかった。
「僕は聖都騎士団には入れないからここに入門するのはちょっとね。」
「ごめんなさい、そちらのお方は?」
「ああ。こいつはルーク=ロジック。狼公の養子だ、今一緒に旅をしていいるんだ。」
「ロジック公の養子?そんな話はお聞きしていませんね。」
「ああ、まだ一般には知られていない話さ。ガーデニア公やグロウス先輩は知っていることだがな。」
「グロウス先輩とはクレイ男爵様のことですか?ということはガーデニア州には御触れがあったのですね。」
「先日黒鷹城に使者が来ていたみたいだよ。この間一緒にクレイ公にもお目に掛った。」
「そうでしたか。それでは確かに聖都騎士団に入ることは無理でしょうね。」
「俺は君と立合えれば何でもいいけどな。」
当初の目的とは別の獲物を見つけたロックは、楽しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます