第93話 暗躍Ⅱ⑨
ソニーを追っていくとある屋敷に入って行った。ロックには誰の屋敷か判らなかった。人に聞くと屋敷というよりもアストラッド州の出先機関のような建物らしかった。それならソニーが入って行くのも頷ける。
どうも出てくる様子もないな、とロックはそこを後にすることにした。滞在先は判ったのだ、また正式にグロウスから問い合わせてもらうことにしてロックは急ぎアクトレス家に向かった。
ロックがアクトレス家に着くと周囲には誰も居なかった。全員中に入ったのだろうか。
「ジェイ、居るか?」
すぐに返事があった。
(戻ったのか、ロック。中は今大変なことになっておるぞ、急いで一番西の門から建物に入ってくるのだ。)
「大変な事?」
(そうだ、グロウス配下の者たちとこの屋敷に詰めていた私兵たちとが戦闘状態だ。死人も出ている。早く来るのだ。)
ロックは全速で向かう。ルークもグロウスも居るのだ、滅多に引けは取らないとは思うが゛、私兵の数が判らないので、不利な状況も十分考えられる。自分が残った方がよかったのか、と少しロックは後悔した。
アクトレス家の一番西の門から入った建物は北の本宅や東の来客用とは違いほぼ倉庫のような使い方をされている、しかし大きな建物だった。三階建てだが多分地下室もあるだろう。
ロックが付くとそこは修羅場だった。屋敷の外も中も戦闘だらけだ。数は圧倒的にアクトレス家の私兵が多い。グロウス配下の倍は居そうだ。
戦闘はそれでも膠着しているようだった。三つの中心となっている場所がある。一つはグロウス、一つはルーク、あと一つはレイズ公太子の親衛隊ダーク=エルクだ。その三人を私兵たちが大勢で囲んでいる。そのお陰で騎士団員たちは私兵とほぼ互角の戦いが出来ていた。そこにロックが参戦する。
「ルーク、大丈夫か、俺に任せて少し休め。」
ルークは剣の腕は確かだが体力は心許なかった。ロックがルークの代わりに大勢の私兵を相手にする。それで一気に情勢が変わった。
「ロック、遅いぞ。来ないうちに全部屠ってやろうと思っていたところだ。」
グロウスは言うが少し負け惜しみが入っていた。数で押し切ろうとする私兵たちに辟易していたのだ。細かい傷はいくつか受けてしまってもいた。ロック一人の参戦で状況は全く変わったのでグロウスも一息付けたのだ。
「グロウス様、お怪我はありませんか。」
近づいてきたダークも少し疲れ始めていた。
「親衛隊か、大した事はない。お主も怪我はしないようにな。怪我をさせたら公太子に怒られそうだ。」
「ロック殿のお陰で後一押しで大勢は決まりそうです。気合を入れてまいりましょう。」
そう言うとダークはまた私兵の集団に切り掛かっていった。できるだけ殺さないように手加減して戦うのは至難の業だったが、ロックたちには十分可能だ。ロックたちに向かっていった私兵の方が割と軽傷で済んでいたのだ。戦えない状況にまで追い込む戦い方、そう容易いことではない。
逆に騎士団員に向かっていった私兵は多くが殺されていた。騎士団員に手加減を求めるのは無理だったからだ。今回の事件に私兵たちがどこまで関わっているのか判らなかったが、覚悟して金で雇われているのだから命を惜しんではいない筈だった。
「そろそろ方が付きそうだね。」
少し休んではいたがまた戦いに戻っていたルークがロックに近づいて話しかけた。両者ともに余裕がある。特にロックはまだまだ戦い足りない様子だった。
私兵たちはほぼ全員が死んだか捕縛された。何人かは逃げたようだ。グロウスたちは騎士団員がやはり六人ほど殺されてしまった。任務とはいえ忍びないことだった。
戦闘が決したことであたりは整然としていた。あとは屋敷の中で拐された人々を見つけるだけだ。一行は元気が有り余っているロックを先頭に屋敷の地下室へと降りて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます