第91話 暗躍Ⅱ⑦
「それは事実なのだな。」
カシルの報告を苦虫を噛むような表情で聞いていたカール公爵はやっと縛りだしたのがその言葉だった。
「事実のようです。ロック=レパードとルーク=ロジックが連れている使い魔の情報ですが、二人が信用できるようにその情報も信用できると思われます。」
カールの所にもアゼリア州太守ヴォルフ=ロジックから自分の新しい養子であるルークの件は知らせが届いていた。ロック=レパードとグロウスは面識があるので本人に間違いないだろう。父であるバーノン=レパードとはカールも面識があった。バーノンは聖都騎士団の副団長なのだ。そしてそのロックの同行者であるルークも狼公の養子本人に間違いないはずだ。その者たちの使い魔の情報。無視はできなかった。
「どうすれば良いのだ。カシルよ、何かいい案はあるのか?」
単純に若い男女を何人も誘拐して殺した、として捕まえられるほどワーロン=アクトレスは小物ではない。ただ、事が事だけに見逃すわけにも行かない。レイズ公太子がお忍びで来ていて事件の内容を知っていることも問題だった。ガーデニア州内だけでは済まない事態になりつつある。アストラッド侯の嫡男ソニー=アレスの動向も気に掛かる。
カールとカシル親子は何もかも一度に考えられる問題ではないので、とりあえずワーロン=アクトレス財務大臣の件だけを決めることにした。
「判った、そのことが本当ならばアクトレス家を捜索することを許そう。しかし、カシルよ、万が一証拠が出なかったら、その責任は誰が採るのだ?」
カールとしては事件が本当であれば何の問題もない。アクトレス家を解体すればいいだけだ。証拠が出なかったとき、捜索を許可した自分の責任になることが問題だった。太守として許されることではない。
「私の独断ということでよろしいのではないでしょうか。」
「いや、駄目だ、お前は私の跡を継ぐ人間なのだ。こんなところで傷を付ける訳には行かない。」
「ではどうしろと仰るのですか?」
答えは聞かなくても判っていた。
「グロウスにやらせろ。」
やはり想像通りだった。もし証拠が出なかったら、情報を持ってきた本人であるグロウスの独断専行だったことにするのだ。カシルは納得できなかった。
「父上、それはあまりにもグロウスを蔑ろにし過ぎるご判断ではありませんか。」
父が弟を少し疎ましく思っていることは薄々感じていた。武よりも文を重んじる父らしかったが、カシルはたった一人の弟が可愛くてしょうがなかった。出来の悪い子ほど可愛い、と言うわけではなかったが本当に愛しており、場合によってはガーデニア公を弟に継がせてもいい、とさえ思っていたのだ。そうすれば剣の修行の聖地と呼ばれるマゼランを有しているガーデニア州が武を以って立つことになる。自分が太守になれば父の跡を継ぐだけで何も変わらない。
「しかし、そう言うがな、カシル。やはりお前に責任を取らせることはできん。それは判るだろう。だとしたらグロウスに取らせるしかあるまい。」
アクトレス家に証拠があれば問題はない。ただ、万が一であっても危険なことは避けるべきだという父の考えも判らなくはない。そして弟はその提案を何事もなく受け入れるだろう。それが判っているだけにカシルは辛かった。
「お前は残っておれ。公太子は迎えをやるから城に来たら相手をしてくれればよい。グロウスには使いの者をやって、今の話を伝えよう。あ奴は呼んでも黒鷹城には来まい。」
カシルにとっては父の言いつけは絶対だった。従うしかない。弟の無事を祈るしかなかった。
カール=クレイ公爵の使いから話を聞くとグロウスは直ぐに納得した。
「グロウス先輩、それで大丈夫なんですか?」
ロックが心配するがグロウスは気にも留めない。
「お前は戻って父と兄に、お任せください、と伝えてくれ。そして、何の問題はない、とな。」
カールの使者を返してグロウスはアクトレス家を強襲する準備を命じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます