第38話 ナミヤ教グレデス教会⑥

「危ない、危ない。さすがですね、あなたの

腕は十分理解しています。まともにやり合う

気はありませんよ。」


 ルシアはそう言いながら人の壁の中に紛れ

た。ロックの打ち込みをよけたのだ。ルシア

も只者ではなかった。暗殺を生業にしている

ので無理な命のやり取りはしないのだ。


「逃げるな。」


「ロック、駄目だ。彼らに紛れられたら、も

う追えない。追いかけて倒すことが目的じゃ

ないだろ。」


 アークにだけは言われたくなかったが、確

かにルシアを追いかけている暇はなかった。


「ここを抜けるには、この人数をなんとかし

ないと。裏に回った方がいいかな。」


「ソニー、この建物の裏口が判っているの?」


「いや、知らないけど、裏口くらいあるでし

ょ。」


「行き当たりばったりか。ソニー、あんたの

良さは冷静なところだと思っていたけど案外

イケイケなんだな。」


「君に言われたくない。アークにもね。」


 言う前に機先を制された形のアークは、行

動を起こした。ロック以外にとりあえず裏口

を探しに行かせる。ロックたちは殿で教会に

入ってくる者たちを制していた。狭い入口な

ので一度に入れる人数が絞られる。二人で十

分だった。


「しかし、キリがない。ルークたちは裏口を

見つけられたのかな。」


「大丈夫だろ、ソニーも居るんだ。しかし、

さっきの奴は相当な使い手ではあるな。ちゃ

んと試合をしてみたい。」


「アーク、お前も相当なもんだな。ここを抜

けたら俺と試合ろう。」


 そこにルークが戻って来た。


「あったよ、ここの扉を閉めて向かおう。」


 三人でなんとか扉を閉めて奥へと向かう。

複雑な建物だったがどうもいくつか裏口があ

るようだった。ソニーたちが見つけた裏口に

迷わずにたどり着いた。迷路のようだったが

ルークはトレースの魔道をかけていたので問

題なかったのだ。


「来たね、じゃあ行くよ。」


 六人が外に出ると、そこには誰も居なかっ

た。終焉の地の関係者たちはみんな表口に殺

到していたのだ。


「街を出るよ。」


「それはいいけど、馬車はどうする?」


 ロックたちの馬車、アークたちの馬車、ど

ちらもホテルに置いたままだ。ホテルに戻る

訳にもいかない。ホテルの周りは疫病の感染

者で溢れてしまっていた。


「迎えに来てもらう手はずになっていたんだ

が、時間が経ってしまったからもう無理だろ

うね。」


「そんな手はずになっていたのか。」


「そう。なんとかあの時間に街はずれまで辿

り着いていたら問題なかったんだけど、着い

た時には間に合ってなかったから。」


「君の関係者?」


「アストラッド騎士団の手の者だからどちら

かと言うとアークの関係者かな。帰れなくな

ったことは伝えられていたから。」


「もう無理か。」


「そうだねずっとあの場所で待ってくれてい

るとは思えない。さて、ホントにどうしよう

か。」


「船はどうかな。元々船を見つけて旅を続け

るためにロスに来たのだけれど。」


 ロックとルークは修行の旅をつづける為に

ロスで船を見つけて東に向かうつもりだった

のだ。


「船か。ちょっとそれは問題だな。」


「どうして?あなたたちはアストラッドから

来たのでしょ?だったら船で東に向かった方

が速いじゃない。ロスへも船で来たんじゃな

いの?」


「えっ、いや、まあ、そうなんだけど。」


 ソニーはなにかを誤魔化そうとしているよ

うだった。


(何かがくるぞ)


 久しぶりに出て来たジェイが叫んだ。


「なんだよ、どこに行ってたんだ、ジェイ。」


(気を付けろ。何か、とんでもないものが来る

ぞ)


「とんでもないもの?」


(そうだ。尋常ではない魔道力を感じる。)


 確かにとんでもない力を持って何かが近づい

て来るのに気が付いた。確実にこちらに向かっ

ている。


「逃げるか。」


「無駄だよ。迎え撃つしかない。」


 とんでもない何かがもう目の前に迫っていた。

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