第21話 秘密の森⑥

 二人と一匹は奥へ奥へ、下へ下へと進んで

いく。右に折れたり左に折れたり。何度か分

かれ道に出くわしたが、その都度


(こっちだ。)


 とブラウン=ジェイキンが指示し、その方

向へと進む。


「いったい何処まで続いているんだ、この洞

窟は?」


「本当にこっちであっているのかい?」


(間違いない。我はちゃんと我が主の居場所

を把握できておる。もう少しだ。)


 二人と一匹はさらに奥へ奥へと進む。


 すると、少し広い場所に出た。ただの何も

ない広場のようだ。


「待ちかねたぞ、お前たち。ネズミもよくや

った。お前のようなものにしては上出来だ。」


 空間全体に響くような声が聞こえた。但し

何処にもその姿は見えない。


「ジェイ、やっぱり俺たちを騙したな。」


「ロック、待ってよ。ジェイの誘いに乗るの

は騙されようがそうでなかろうが仕方ない、

ってことで付いてきたんだから。」


(すまぬ、すまぬ、これも我が主のため、ゆ

るせ。)


「ごちゃごちゃと、どうでもいいわ。我が預

かっている者たちの命が惜しければ我の言う

ことを聞くのだ、小僧どもよ。」


 空間と頭の両方に響く声だ。


「我が名はナグ、千の仔を孕みし森の黒山羊

シュブ=二グラスの眷属にしてこの地を治め

るもの。お前たちは、その我の糧となっても

らう。特にその細い方のお前。お前を取り込

むことで我の魔力は偉大なるジュブ=ニグラ

スに迫ることができるのだ。そして我は偉大

なる我が父を超える。」


「取り込まれるなんて願い下げだね。ナグ、

お前の魔力は全然大したことない。偉大なる

父、という奴も高が知れている。僕の前に膝

まづぃて許しを乞うがいい。」


 突然強気なルークにロックは驚いたが、何

か考えがあるのだろうと様子を伺っていた。

ロックは何か言おうとするジェイの口を塞い

で後ろに下がった。


「おのれ、おのれ、我を馬鹿にするのか。我

は、」


「千の仔を孕みし森の黒山羊シュブ=二グラ

スの眷属だろ?それがどうかしたのか?お前

のような者に眷属を名乗られてシュブ=ニグ

ラスという奴も嘸かし心外だろう。」


 ルークは態とナグを怒らそうとしているよ

うだ。それが何かの作戦で勝機があるのか、

ロックには皆目見当もつかなかった。


(離せ、我には作戦があるのだ。ナグの頭の

後ろの飾りを奪うと彼の者の魔力は半減する

と言われている。ルークが気を引いている間

にあの飾りを奪うのだ。)


 ジェイにはジェイの使命があった。ロック

はすぐにジェイを離した。


「お前は一体何者なのだ。我を罵倒するだけ

の力がお前にあると言うのか。」


「そう言っているつもりだけど理解できない

のかな?」


 ナグは完全に頭に来ている。その最大の魔

力で攻撃してきた。


「我が名において命じる。炎の聖霊よ、あい

つを溶かしてしまえ。」


 その時だった。ジェイがナグの後ろに回っ

て髪飾りを奪った。ジェイは翼を広げて飛ん

でいた。ただのネズミではなかったのだ。彼

はたしかに猛禽類の王だった。


 魔力の半減した、だがそれでも巨大な火の

塊がルークを襲う。


「これを待ってたんだ。月の女神サラよ、す

べてをはね返してくれ!」


 ナグが放った火の塊は、ルークの前で反転

しナグへと戻っていった。


「なっ、何を!」


 自らの魔力を込めた一撃を自らが浴びてし

まったナグは炎に包まれた。


「うおぉぉぉぉぉぉ。」


 断末魔の叫びが大いなるエピタフの中に響

き渡る。


 ロックは巻き込まれないようにステファニ

ーとレイラを助け出していた。


 やがて断末魔も弱くなり、ナグは真っ黒な

塊になり果てた。

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