そらぷろじぇくと。そのさん

「お前たちって本当にとんでもないもの作るよな……」


 一年前こそ尊敬の言葉を述べていたベガであるが、幾度となく意表を突くようなことをされれば疲れも出てくるもの。今では寧ろ呆れてしまい、言葉が出てこないのだ。


「探究心の賜物だよ」


 研究者であるのだから、続けなくては食べていけないというのが本音なのだろう。だが、事情を知らない者に対してわざわざ心の内を明かすようなことはしない。


「というか、こっちに来るなら星夜に電話させる意味無かったんじゃ……」


 ルイが意見するが、朝倉は首を横に振る。


「そしたら面白くないだろう……?」

「良く分からないな、科学者って」


 朝倉は一見難しいことを言っているようであるが、単純に星夜の困った顔が見たいだけの理由でしただけの、言わば遊び心である。だが、研究に対する情熱は本物であり、発案した彼を手伝いたいという気持ちに偽りは一切ない。


「それで、今回は何をするんだ?」

「おお、本当に手伝ってくれるのか!」

「断ってもやらされるオチしか見えないもの……」


 朝倉のお願いを拒んで解放された例は全くない。断れば断るほどにしつこくなるだけで、周囲の人間や学校にすら協力を仰ぎ、教育実習という名目で認可を貰うのだからとんでもない。

 更にはルイの父親までこれに乗り気なことこそ一番たちの悪いことである。人権のへったくれもありゃしない。


 「では早速、説明に入ろう」


 今回行われるのは驚くべきことに、電波障害を引き起こし、通信端末の一切を一時的に使用不能にするというものだ。非常に迷惑な行為であり、下手をすれば犯罪にもなりかねない危険なものだ。


 だが、朝倉の力をもってすれば、まずバレることはない。

 何故なら彼が天才だからだ。


「その理屈はおかしいだろ」


 とベガは言うものの、一年間でできた信用もあって、それ以上に問うことはない。


「天ノ峰の街全体の電波を阻害するためには、一人は街の中心点の上空へ、そして後の三人は中心点から均等に分かれる。たったそれだけだよ」


 分かったような分からないような、複雑な表情をしたルイとベガ。言っていることは分かるのだが、それで自分たちがどのような行動を取ればいいのかが明確でないのだから当たり前か。

 朝倉も自分が解説不足であることに気が付いたのか、咳払いをする。


「この機器を持って、指定した場所に居るだけで大丈夫さ」

「それだけでいいの?」

「これらの電源は入っているから問題ないよ。後は上空から親機を起動すれば勝手に動いてくれるんだ」


 とりあえず、すべきことは理解した。だが二人には解せないことが一つだけある。


「……朝倉、あのさ」

「うん、どうしたんだい?」

「この実験の目的は何だよ」

「……あー、話してなかったね」


 そこから話せよと、総ツッコミを食らう朝倉であった。彼は研究の説明が致命的に下手なのである。一年前よりかはまともになっているものの、5W1Hのうちどれかが抜けていることが非常に多く、内容を汲み取り辛い。仮にそれらが入っていて理解をしたとしても、それが本来の意図と外れていることがあるのだから聞く側も一苦労だ。


 どうにか手取り足取り、この実験が星夜のための、街の人々に空を見せるための実験であることの説明を追えるまでに何分を要しただろうか。


「回りくどいよもっと縮められただろ!」

「ははは、否めない」

「カッコつけるなよ……」


 本人も改善の意思はあるが、こればかりはどうしても変えられないようだ。何かが秀でている人間は、どうしてこうも壊滅的なものがあるのだろうか。ベガには不思議で仕方がなかった。


「まあまあ、ベガも理解できたんだし、いいじゃない」

「ルイはほんと甘いなあ……それが良さでもあるけどな」

「……さて、一件落着したところで、準備を始めようか」

「お前が言うな」


 晴れ間の見えてきたこの時間。青空を見せるにはもってこいだろう。

 ようやっと準備に取りかかろうという時に、ベガは何かに気付いたように朝倉へ問う。


「別行動になった後の連絡はどうするんだ……?」

「あっ……――」

「えっ」

「――……ルイ君の持っている朝倉印の通信機器ならどうにかなる」

「今お前『あっ』って言ったよな!?」

「科学者は嘘をつかない。安心してほしい」


 どうにも噛み合っていない三人だが、星夜のためにも成功させたいという思いは共通していた。

 こうしたトラブルに見舞われながらも、どうにか作戦は実行に移されるのだった。

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