ジャスト・ユー・アンド・ミー


 プツプツ、パチンぱちん。

 エージェント・スミスはこの音で目覚めた。退役しても叩き込まれた習慣は変わらない。 スミスは一番に拳銃のつなぎの中のM-2289の位置を探ったが、なかった。予備のフル装弾の弾倉を二つポケットに入れていたが、手で探るもなかった。

 まず、搭乗員用のつなぎのジャンプスーツを着ていなかった。

 あわてたが、音はたてないように、静かに、この部屋の中、女を探した。

 コンクリートとどこかからもってっきたような、ボロの布切れだけで覆われていた。  部屋の真ん中を無理やり掘り下げ、そこに火をべ囲炉裏にしていた。

 相手の人数も確かめないといけない。仲間がいれば、スミス一人で制圧は不可能だ。

 部屋の中は、静かだった。

 

 いや、女は居た。


 部屋の壁を覆った布切れだと思ったものは、屈んだ女の背中だった。

 スミスは囲炉裏の火が不安定なことと、薪の火で光量が少ないことで気づかなかった。

女がゆっくりとこちらを向いた。

 スミスは身構えた。

 女は、顔を覆っていた布を取り外していた。女の顔があらわになった。

 女の皮膚は、ソフィアの陽光に焼かれ、青く日焼けていた、これは、このアミュに暮らしていると誰もがなる現象だった。やがて、スミスも青くなるだろう。

しかし、顔の造作は違った。

 右の頬には、丸が入れ墨で大きく彫られ、左の頬には太い縦棒が彫られていた。そして、おでこには、凶暴な信徒を現す、紅い横棒が彫られていた。そして、その上は、髪の生え際まで、皮膚を剥がしたようなあとが、あった。

 女の顔は醜かった。

 エージェント・スミスは、完全に声を失った。掛ける言葉が見つからなかった。

 礼を言わねばならないのは、分かっていた。あのままでは、アミュの大地で干からびて死んでいただろう。

 スミスは、小さな声で語りかけた。

「ありがとう。助けてくれたのは、正直礼を言う」 

 女は黙っていた。右頬の太い丸入れ墨は変わらなかったが、左頬の縦棒と額の太い横棒は、囲炉裏の揺れる明かりのせいで、ゆらゆらと曲がった。

「俺の名前は、スミス、ジョン・スミス、あんたは、ヒーザンズか?」

 女は、女性らしい体つきをしていたが、大柄だった。手にはスミスの拳銃M-2899が構えられていた。

 スミスは手を上げた。

「攻撃する意志はない。共通語がわからないのか、アミュの方言に切り替えようか」

「その必要はない、広域行政の犬め」

 女は喋った。

「そのとおり、広域行政の犬だ。あんたの名前をおしえてくれ、そうでないと、話しかけられないだろう」

「キョンだ、あんたが私に話しかける必要はない」

「そうかもな、できれば教えて欲しい、ここはどこだ」

「私が、答える必要もない」

「じゃあ、なんで助けたんだ」

「助けた?、あんたを売るためだ、広域行政の卑しい犬め」

 その時、囲炉裏の近くの紅いアラームが明滅し、部屋の外で、爆発が起こった。

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