蝦夷梅雨に濡れる森
去年導入した草刈り機にバッテリーを取り付けた。右肩にベルトをかけて体の左側に装備し、いざ庭へ。午後からは雨の予報なので午前中にできるだけやっておきたいところである。やっかいなのは牧草で、少し伸びるとすぐ固くなる。どこからか種が飛んできたというのでもおかしくないし、以前住んでいた人が芝生として蒔いた可能性もある。なんにせよ回転するワイヤーで刈っていくので、柔らかいうちが勝負だ。まだ勝機はある。そうやってやる気をだしたのが、先週のこと。
森がいっとう美しくなるのは雨降りの日だと思う。
北海道には梅雨がない、とはいうが、正確には梅雨前線がここまでこないだけである。六月を迎える間近になったころ、蝦夷梅雨がはじまる。とりあえずエゾをつけておけば、それっぽいちょっと違うものを表現できるのがいい。
数日前から大気が不安定らしく、晴れたり土砂降りになったりをくりかえして一日のなかでめまぐるしく天気が移り変わる。風が吹いてきて、すこし離れた空に黒い雲が見えたら、私にだって予報ができるというものだ。
今日も激しい雨ではあったが、この随筆シリーズではおなじみの鳥さん夫妻はひっきりなしに餌を運んできていた。まずは偵察からはじまり、次に草をくわえ集めてきて巣作りをし、そうして交代で卵を温めてきた。一昨日からくちばしに虫がいるようになったらしいので、ついに孵ったのだろう。窓ガラスを隔てた隣人たる私たちには目もくれず、代わる代わる帰ってくる。毎度おなじ形をしているので、ここらで一番捕りやすい種類なのかもしれない。たぶん、カゲロウ。
明日も晴れ間はなさそうだが、彼らは虫を運び続けるし、私は草を刈るだろう。庭全域を終えるころには、最初に着手した区域がほどよく伸びている。
緑が濃く、うつくしく光っているように感じる森の中を進む。フクロウが休んでいてもなんら不思議のないウロを過ぎるとすぐ、草が段階的にのびた庭が見えてくる。
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