旅のお便り
拝啓
早朝の外気温が氷点下になり、白鳥の声が遠くにさみしく聞こえる季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。こちらはもう冬支度を始める時期のようです。
さて、先日は東京より旧い友人が訪ねてきました。私の家に四日間滞在したわけですが、私はまるでツアーガイドにでもなったような気分でした。この大地におきましては、どこへ行こうと素晴らしい景色と景色の間には、途方もないとも言える道がひたすらに続くのです。計画、というものが必要で重要でした。
まずはとある岬へと向かいました。何もない、ただ広い草原と、その端に灯台が建っているだけの場所です。断崖絶壁の岸にはゆるやかな波が打ち砕け、船が遠くに見えました。本当に遠くまで見えました。後々、旅の終わりにこの岬を訪れたことを振り返った友人は「なにもないことが、こんなにもいいとは思わなかった」と言ってくれました。行きしに見かけた鹿の群れは、帰りしでも同様に草を食んだり寝たりしています。私たちのことなど全く意に介さないような様子が、心地よかった。
神の子の池にも会いに行きました。私が一年のうちに度々訪れる、あの青です。私は、夏の鮮やかな色よりも、この時期や冬に見るような深い青の方が好きでしたので、好きなものを見てもらえたのは嬉しかったです。神の湖もまた素晴らしく、青く、澄んでいて、空を鏡のように写す姿は息をのむ美しさでした。どちらが空で、どちらが湖面でもかまわないと思うほどです。
そうしているうちに、不思議な世界へと迷い込むことになるのですが、この場所を語るにはなかなか難しいものがあります。立体芸術家の方の、壮大な個展の中に入ったような……いえ、どれだけ言葉を尽くしても実際に訪れないことにはわからないでしょう。あなたもいつか、行ってください。曇り空の似合う空間です。
晴れの日も、曇っていても、雨降りでも、いつでも大地は美しく見えます。それでは、息災で。
かしこ
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