あの青色に会いにいく
朝九時、スタート地点に立った。手に入れたスノーシューを使って、さてどこへ行こうかと考えたとき、まっさきに思い浮かんだのはあの青だった。雪の中にたたずむ姿はさぞかし美しかろうと思ったのだ。アイヌ語で「神の池」と呼ばれる場所と繋がり、そこからの湧き水でできているために付いた名が「神の子池」である。信じられないほどの透明度、青のような緑のような色を湛え、中にオショロコマを泳がせている。周りの景色を鏡のように映す姿は、何度見ても飽きない。それどころか定期的に会いに行きたくなる。しかし今までは冬季間は行くことができなかった。舗装道路から先の林道は除雪されないからである。
新雪に新しい轍がなかったので、林道の入り口に車を差し込んだ。そこから歩き出す。看板には「2キロ先」と書かれていた。春先にも歩いて行ったことがあり、そのときは一時間ほどで到達した記憶がある。今回はどうだろう。雪道にスノーシューであるから、時間がかかるかもしれない。けれど歩き始めると予想以上に歩きやすく、通常時と同じくらいのスピードがでる。これなら、と気持ちは上昇する。意気込みがゆるんだ。
出発してすぐに見かけた制限速度を示す標識は、標準よりずいぶん低い私と並ぶ高さまでになっていた。その後もカーブミラーや色々な標識、看板が積雪によって小さくなっており、なんだか自分が巨人になったような気分になる。
枯れたアジサイの顎、雪の中から頭だけをのぞかせるクマザサ、時折響く鳥の声、雪をのせて重たそうに枝先をしならせる針葉樹たち、その中を歩いていく。
何度目かの登り坂と曲がり角を経て、見えてきたのは遊歩道の手すり。人が歩いて剥き出しになった根が、さらなる人の歩みで傷つけられる。みかねた行政によって二年前ほど前に設置された。寂しさのようなものが募るが、私も訪れる以上環境を害している一人だ。
ここに来る人が絶えない理由は今日も青く輝く。神の池の子。
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