森をかき混ぜる風
生ぬるい空気、ともすれば暑いと感じられるようなそれが一帯を支配していた。さすがは温帯低気圧ということだろうか。わからないが、とにかく、台風が大地へやってきた。
午前中で仕事を切り上げて帰ってきた私は、家に入った途端いやな予感に襲われた。それよりも前に帰り道が倒木でふさがって迂回しなければならなかったり、あまりの強風に車がそれているのを感じたりしながらの帰宅だった。そうしてやっと帰ってきての、これだ。停電していた。テレビの赤いランプが消えていたことで気がついた。冷蔵庫の扉を開けると真っ暗だった。吹雪になるとたまにあることだし、去年の台風でも停電はあったはずだ。実家にいた頃は滅多になかったことだけれど、こうも頻繁だと慣れてくる。電力会社の復旧見込みは、その時点では夜の六時だった。
森を大きくかき混ぜるような風が吹いている。まだ落ちる予定のなかった緑の葉がちぎれてそこら中を舞う。枝もバラバラと飛んで落ちて、外を出歩くのは危険だろうと思えた。しかしそんな最中を電力会社の方々は電気復旧のために働いているのである。有り難いかぎりだ。
カーテンを開けて明かりを取りこんだ。明るいうちにやれることはやっておこう。と、もそもそ動いていたら、あれよあれよというまに他の地区でも停電が発生していたらしい。こうなると農家のないここらは後回しになってしまう。夜の八時に延長されていた。このお知らせを見てあきらめのついた私は、暗くなったら寝ようと決めた。冷凍庫や冷蔵庫のことを心配したところでどうにかなるものでもないし、懐中電灯を使ってまでやるようなこともない。日が暮れる前に夕飯を済ませておけばもうそれでいいだろう。そうして、夜を待った。
雨の方が先におさまり、風も徐々に落ち着いていく。眠りに落ちてしばらく、プリンターの駆動音で目が覚めた。どうやら復旧したらしい。静まり返った森の中から、なにがしかの鳴き声が聞こえる。
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