19:女神様!俺に乗ってください!


 筋肉エルフの一人が、俺の背後に回った。肩に手を置いて、ぎゅっと掴んでくる。

 ミシリ、肩が痛んだ。


 あっ、これはヤバイやつだ。

 女の方が強い世界ってことは、女が男を護らないといけないんだ。

 つまり今の俺は、地球でいうところの、怖〜いお兄さん達に絡まれ、彼氏にも見捨てられたか弱い女の子ってところか。


 ひえぇ、まさかケツの穴を掘られちゃうじゃないだろうか。



「あ、あの、遊ぶっていうのは、具体的にどんな?」

「そんなもん言わなくてもわかるだろう? こんなところじゃ出来ないような遊びだよ」


 肩を掴む手に、力が込められた。

 痛い痛い、肩が砕ける!


「アタイらの作業してる坑道まで行こうや。なに、馬車に乗ればすぐさ」


 ふえぇ、本当に炭鉱で働いてるお方みたいだよぅ。

 日本の治安が懐かしい。


「いや、俺には女神さ――じゃなくて、さっきの娘がいるんで」

「つれないこと言うなよ。なァ?」


 みしみしみし。

 マジで肩を砕かれそう。

 助けを求めるように、周囲の客を見た。視線をそらされた。ちくしょうめ。

 巡回中の騎士団とか、都合よく現れないかなぁ。



「オラ立てや」


 ついに、無理やり立たされた。



「あっちでたっぷり、ソーセージをご馳走してくれや」


 そして、ぐいぐい引っ張られていく。

 やばいやばい。トラックで引っ張られてるみたいだ。抵抗が意味をなさず、建物の間にある細くて薄暗い裏通りへと、ズルズル引きずられていく。


 俺、何をされちゃうの?

 ケツの穴を掘るのだけはやめてください。



「気持ちよくなる闇ポーションがあるんだ。す~ぐハイになっちまうぜェ」


 ひえっ、まさかの薬物だった。

 心も体も壊されて、奴隷商人に売られちゃうのかな。異世界怖い!

 急に、ポーションの瓶が飛んできた。



「うおっ」


 俺を掴んでいた方の筋肉女が、顔を手でかばう。瓶が腕に命中し、中の液体が女の目に入った。


「なんだっ、ちくしょう!」

「姉貴、大丈夫っすか!」


 なんだか知らないが、俺は腕を開放された。

 今がチャンスかもしれない。

 表通りの方を向くと、女神様が立っていた。



「こっちです!」


 俺は走った。

 すぐに女神様と合流する。


「女神様! 助かりました! 俺、もう少しで性奴隷にされるところでしたよ! あ、でもルーシアさんみたいな娘に買われるんなら」

「今すぐ縛ってあの人達の前に捨ててきましょうか?」

「ごめんなさい、冗談です」


 やっぱり、奴隷は怖いからね。


「ルーシアさんより、私のほうが奴隷に優しく出来るんですから」


 って、怒るポイントそこかい。


「白昼堂々と人さらいをしようとするなんて、私の認識が甘かったみたいです」


 しかし、表通りまであと少しというところで、新たな筋肉女が出現し、道を塞がれた。



「曲がります!」


 女神様は俺の手を引っ張って、右の通路へと走った。

 しかし、そっちは行き止まりだった。



「姉ちゃんよぉ。やってくれんじゃねーか」


 ポーションをくらった女が、取り巻きを従え迫ってくる。

 三方をレンガの建物に覆われ、唯一ある道には筋肉女。大ピンチだ。


「ごめんなさい。私がトモマサさんを一人にしたばっかりに」


 女神様が、悔しそうに唇を噛んだ。

 確かに、この世界では女の子のほうが強い。だけど、俺は男のほうが強い世界から来たんだ。女神様だって、この世界の住人じゃない。


 俺は非力で臆病だけど、それでも地球の男だからね。女神様に守られっぱなしはダメだ。



「女神様! 俺に乗ってください!」

「はぁ? こんな時になにシモネタを――」

「違います! 俺を踏み台にすれば、建物に上がれます。女神様だけでも逃げてください!」


 建物は二階程度の高さしかない。俺を使えば、屋根に上がれるはずだ。

 俺は背中を丸め、女神様を促した。


「でも、そうしたらトモマサさんは」

「いいから早く! 俺、女神様には感謝してるんです。なのに勝手にこの世界に巻き込んじゃって……だから、これくらいはさせてください!」

「……トモマサさん。わかりました。男の意地ですね。貴方の勇気、無駄にはしません」


 女神様は頷いて、俺の背に足をかけた。

 おひょ、片足を上げたせいで、目の前に女神様のパンツが!



「んっ」


 女神様は俺を踏み台に、屋根に上がった。



「逃がすかよ!」


 筋肉女たちが走り出した。



「さあトモマサさん、早く!」


 女神様が屋根の上から、手を差し伸ばしてくる。

 逃げていいのに。

 女神様、やっぱり本当は優しいなあ。


 俺は女神様の手を掴んだ。女神様は俺を引き上げようとして、落ちた。

 路面に押し倒される俺。


「なにやってるんですか! せっかく上がれたのに!」

「だって! 私はこの世界の女性みたいに強くはないんですよ! 非力な女の子なんです!」

「だったら一人で逃げればよかったじゃないですか!」

「そんなこと出来るわけないじゃないですか! だいたい、背中震えまくりでしたよ! 怖いくせに、こんな時だけかっこつけないでください!」


 こんな時だからかっこつけたのに!


「痴話喧嘩たぁ、妬かせるじゃねーか」


 ついに、筋肉女たちに追いつかれた。

 終わった!




「くそっ、こうなったら俺が時間を稼ぐ! その隙に女神様は――」




 バシン。

 頭を叩かれ、俺はうつ伏せの形に倒れた。



「弱ッ! 時間稼げてないじゃないですか!」

「いや、無理でしょこれ」


 地面に伏したまま、女神様を見る。

 ああ、純白のおパンティ。これが最後に見るえっちな記憶かぁ。

 筋肉女の腕が俺に伸び――。


「ぐえっ」

「ぎゃぁっ」


 途中で止まった。



「な、なんだお前は――ぶべぁっ」


 かと思えば、何者かの回し蹴りをくらい、俺達が登ろうとしていた建物の壁に背を打ち付け、動かなくなった。



「な、なにが……?」


 起き上がって見ると、メイド服姿の狐っ娘だった。




「「ルーシアさん!」」 




 俺と女神様の声がはもった。



「危ないところでしたね。ダメですよー、男の子が一人で町を歩く時は、護身用のアイテムくらい持たないと」


 ふりふり、ゆさゆさ。

 ルーシアさんの尻尾が揺れている。


「ルーシアさんもですよ。お兄さんを守れるくらいの力がないなら、武器を持ち歩いてくださーい」


 ルーシアさんはそう言って、俺の手に水晶玉のついた松明みたいなモノを手渡した。


「これは?」

「サンダーロッドです。次こんなことがあったら、これを振ってください。魔道具なので、魔力が弱くても使えまーす。フランさんの分もありますよー」


 本物の女神はここにいた!



「ルーシアさん好きだ結婚してください!」



 思わず俺は土下座していた。

 あれ、俺、土下座癖ついてない?


「うふふ。無理でーす」


 そうして笑顔でフラれる俺でしたってね。

 そして、何故だか不機嫌になった女神様に、お尻を蹴られましたとさ。



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