第62話 命がけの挑戦

 アイアンマイマイが弾かれ、岩壁に激突してめり込むのがみえた。


「あれ?」


 生きてる。

 俺、生きてる!

 ぺしゃんこになっていない!


 え?

 何が起きたんだ?

 何か走馬燈みたいの見えた気がするけど。


「――見切りとカウンターの発動? ノーダメージではじき返すなんて……!」

 アルテナが何か言っている。

「アーティ殿! 今の、今の技は!? すごいぞ、アーティ殿!」

 何かレインが興奮している。何かわからないけれど、俺は何かスゴイ技を使ったらしい。まったく記憶にない。


「お兄ちゃん! 怪我はない! 大丈夫!? ああぁ……よかった、よかったよぅ……」

 ミーアの顔は涙でべしゃべしゃに濡れている。

 ミーア?

「そうだ、ミーア! ちょっとその杖、貸してくれ!」

「え? う、うん」

 俺はミーアから杖を受け取った。


『何か用か、ニンゲン』

 頭の中に声が響いてくる。

「おっさん……ええと、イフリートよ! 力を、貸してくれ」

『やだ』

「ちょ……そこを何とか」

『キサマごときのか弱きニンゲンが我が力を扱えるわけがなかろう。一瞬で黒焦げになるぞ』

「……それでもやるんだ。お願いします。力を貸してください」

『覚悟はできているということか。弱いクセに肝だけは据わっておる。まぁ、無駄だとは思うがやってみるがよい』


 杖から炎が噴出した。

 熱い。息ができない。

 炎はさらに勢いを増す。杖を持つ手も熱くなる。身体の中も熱くなっていくようだった。けれど、このくらいならまだ耐えられる。


「え? 何あれ? まさか、イフリート様!? なんでなんでなんでなんで!?」

 アルテナが何か騒いでいる声が聞こえてくる。

「アンタ、本物の馬鹿なの!? 魔力ないアンタみたいなカスが大精霊様の力を扱えるわけがないじゃん! 消し炭になるよ! ミーア、はやく止めな! 最悪、アタシらも巻き添えくうよ!」

「え……どうしてボクの名前……」

「いいから早く!」

「う、うん!」


「来るな!」

「お兄ちゃん!?」

「大丈夫。俺を、信じて」

「――うん、わかった。信じるよ、お兄ちゃん」



 そうだ。できるはずだ。

 “あの時”みたいに。


 ……“あの時”みたいに?

 なんだっけ。思い出せない。


 やがて激しい炎が、俺の何もかもを包み込んでいった。

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