第56話 寄生虫

 リビングデッド。

 生ける屍。蠢く死者。

 それは、何らかの魔法や薬品、もしくは脳に寄生する虫などが原因で、死後に再び動き出した者たちだ。


『お、お腹が空いた』

『にく……に……肉』

 リビングデッドは白濁した眼球を、一斉にこちらに向けた。


「アーティ殿、下がってろ。あの死者たちを安らかに眠らせてくる」

 剣を持つ手が震える俺を見て、レインが言った。

 あれはもう、死人だ。戦うのをためらってはならない。わかっている、わかっているけれど……どうにも足が動かない。


「ミーア……炎の魔法を、俺の剣に」

「う、うん。わかったよ、お兄ちゃん」

 剣に激しい炎が纏いつく。

 

「魔法剣!?」

 レインと、後方にいるアルテナが声を揃えて言った。


『火……こわい、こわい……』

 リビングデッドたちは、炎を恐れて歩みを止めた。

 

「怯んだ? 疾ッ!」

 レインの姿が――消えた。

 前方にいたリビングデッド4体の頭が跳ね上がり、地面に転げ落ちる。

「きゃっ……!!」

 ミーアが小さな悲鳴を上げ、口元をおさえた。

『ギ、ギ、ギィ』

 リビングデッドの落ちた頭の口から、白く大きな芋虫のような何かが這い出してきて、蠢いている。


 ――攻撃を受ければ、傷口からこやつにくっついておる寄生虫が入り込み、体内が食い荒らされることになる――

 俺はフォルテナの町のギルドのおじいさんの話を思い出していた。これはまさか、例のアイアンマイマイというモンスターの……。


『ギャアア!』

 俺は炎の剣で、白い芋虫を焼いた。

 嫌なにおいに顔をそむけながら、俺はこの先に待つであろう恐るべきモンスターに背筋を寒くするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る