第43話 さとり

 次の日。

 レインはあの鎧を着ていなかった。

 よかった。余計に鎧に閉じこもるようなことにならなくてよかった。

 

 シルヴィアもレインが女性であったことに驚いていた。

 状況は理解してもらえたのだが、微妙に距離ができてしまったような気がする。


 ミーアはそんなに驚いていなかったなー。あんな場面を目撃しても、瀕死の重傷を負った俺を回復し、介抱してくれたし、なんて優しい娘なんだろう。実は内心軽蔑されていたら嫌だな。ミーアに嫌われたら、俺はおしまいな気がする。


「アーティ殿! のんびりと寝ている場合ではないぞ! 今日も修業をするのだ!」

 宿屋のベッドでぐったり横になっている俺を、レインが叩き起こす。

 なんというか、表情がイキイキとしている。綺麗すぎて直視できませぬ。

「あ、はい。すぐに行きます」

 俺はよろよろと身体を起こした。傷は完治しているのだが、なんとも身体が重い。シルヴィアの全力魔法はそれほど強烈だということか。


「アーティ殿、昨日の件だが……」

「あ、はい。大変申し訳ございませんでした」

「何故、謝るのだ? 私はアーティ殿に感謝しているのだぞ」

「え?」

 予想外の言葉に、俺は唖然とした。変態と罵られることがあっても、感謝されることなんてないはずだ。


「男として生きてきたつもりであったが、いつしかそれを負担と感じていたようだ。女として生まれついた以上、完全な男にはなりきれないようだ。昨日のことで、自分が女であり、他のものになれぬことを思い知った。私はどうあがいても、兄の代わりにはなれなかったのだ。だから私は、私のままで強くなろうと決めた。こんなにもすっきりとした気分になれたのは、はじめてのことだ」

 レインは昨日のアレで何をどう思ったのか、何かを悟ったようだ。これまで色々と思い悩んできたんだろうな。なんかよくわからないけれど、お役に立てて光栄です、はい。なんかすみません。

「綺麗、美しいと言われて、とても嬉しく感じるのは、女の性であろうか。鎧の中で縮こまってた自分が、今は馬鹿らしく思う。私を解き放ってくれてありがとう、アーティ殿」

「いや、俺は何も」

 レインは俺の手を取って、ぶんぶんと上下させた。

「さぁ、行こうアーティ殿! 礼の代わりといってはなんだが、私の技のすべてをアーティ殿に伝授しよう! はっはっは!」

 俺はずるずると引きずられていった。


 この日から毎日、俺はぼこぼこになって宿屋に帰ることになるのであった。

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