第41話 めがてん
レインは目を点にし、口をぱくぱくさせている。その視線は、俺の下半身の俺にあった。
「な、な、なんだそれは!?」
俺は静かにかがみこんで、俺を隠した。
「いや、これはその、男の生理現象と言いますか。綺麗な女の人の裸を見たら、大抵の男はこうなると思います、はい」
「……ば、馬鹿な、ありえない! だって、王国の浴場ではみんな目を背けたし、父でさえも辛そうな顔を……」
「ええと、それはたぶんですね。推測ですけれども。みんなレインさんの裸は見たいのだけれども、騎士団長の娘だから万が一を起こしちゃいけないと必死に見ないようにしていた、もしくはお父さんが睨みをきかせていたかだと思いますです。お父さんが辛そうな顔をしたのは、娘が傷だらけになっていくのが辛かったのではないかと思います、はい」
そりゃあね。騎士団長の娘だからね。何かありゃ、刑罰もんだろうよ。
ってか、男女共同の浴場かよ。なんだよそれうらやましい。いや、女性の騎士を認めていないだけあって、わざわざ男女別に浴場を作ってはいない……か。
レインは目を丸くしたまま、口をぽかんと開けている。ようやくその口から言葉が出たのは、数十秒後であった。
「そんな……そんなはずは。私は身体も顔も醜い。だから必死で、鎧ですべてを隠していたのだ。それが……」
刺客のせいじゃなくて、そっちですかい。周りに女性がいなかったのだろうか。
まぁ、踏み込んでは聞けないけれど、母親という言葉が出てきていないところから考えるに、男手ひとつで育てられてきた感じなのかなぁ。それにしても、あんまりにも偏り過ぎている。
「そうだろう? アーティ殿、私は醜いのだろう?」
「……いえ、とても美しいと思います。町でミーアやシルヴィアを見て、醜いと言う人は誰もいなかったでしょう?」
「いや……それは。しかし、みんな、ちらちらは見ていたような」
「それは人目を惹くくらいにかわいいし、綺麗だからですよ。レインさんも2人と同じ部類です、間違いなく」
そりゃもう、隣に並んで歩く俺が恥ずかしくなるくらいにな。ひいき目に見ても、俺はかっこよくないし。ちくしょう。
「いや、しかし、そんな、私は」
レインは混乱しているようだ。これまでの価値観が大きく揺らいだのだ。無理もない。
こうなれば、完全にその価値観を崩してしまおう。
俺は――
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