第28話 ありがと

「……アーティ」

 呆然としている俺のところに、シルヴィアがよろけながらやってきた。

 ミーアの回復魔法で傷は治っているが、心に負った傷はきっと深いだろう。

 全部俺の……俺のせいだ。こうなればやることはひとつしかない。

「アーティ……あ、アタシ」


「ごめんなさい!」

「え?」


 俺は土下座する勢いで頭を下げた。謝るのは先手必勝だって、町長のじいさんが言ってたような気がする!

「シルヴィアがせっかく色々と教えてくれていたのに、あんな風に言ってしまって……そのせいでこんなことになってしまって、本当にごめん。許してもらえないかもしれないけれど……できればもう一度、パーティに戻って……俺たちに色々と教えてくれないか? お願いします」

「お兄ちゃん……。ボクからも……お願いします」

 俺の隣で、ミーアも頭を下げているみたいだった。

「……こ、今回だけだからね! 許してあげるのは!」

「本当か!? ありがとう、シルヴィア!」

「も、もう、このバカぁ!」

「うぇ?」

「アタシがお礼言うタイミング、なくなっちゃったじゃない……」

「お礼?」

 責められるとばかり思っていた俺は、シルヴィアの言葉の意味がよくわからずに、首を傾げて考えた。

 シルヴィアはふいっと、俺たちから背を向けてしまった。


「……ありがと」


「……え?」

「な、何でもない! 町に帰るわよ!」

「あ、ああ」

 よかった。シルヴィアはパーティに留まってくれるみたいだ。

 ほっとしたら、何だかどっと疲れが出た。

 俺たちはずかずかと早足で進んでいくシルヴィアの後を、小走りで追うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る