第12話 魔法で大穴の開いた家④
アンドリュー夫妻が旅立ったあと、研吾はまず優先して訓練場の設置をバルドールとミルファーにたのむ。これで空いた穴から何か入るのは防げるだろう。やはり簡単なものを作るだけならものの数日でできるようだ。
庭の建物が建つのを待つ間、研吾はバザーへと足を運んだ。増築部分の工事を少し眺めていたこともあり、時間は昼前だったので、さすがに人通りが多い。
研吾も色々な人にぶつかりながらも魔吸石などが売られているお店へと足を運ぶ。
これはミルファーに聞いたのだけど、魔法の耐性がある素材のようだ。お城とかにも使われるそれなりに高級な素材でそれなりの値段がする。しかし、今回は使わざるを得ないだろう。
場所も教えてもらった通りの露店だったおかげで土地勘のない研吾でも道に迷うことなく目的地にたどり着く。
「おじさん、魔吸石とあとそれ以外に魔法に強いものってありますか?」
「おっ、そうだな。魔法に強いものか……。反魔草とか防魔砂とかがあるな。反魔草は花屋に行ってくれ。ここでは防魔砂しか置いてないからな」
「わかりました。それではそれをひとつください」
銀貨三枚を払い、小さな土のう袋一杯に入った防魔砂と白く煌びやかなブロックを受け取る。袋一杯に入ってることもあり、砂はずっしりと重い。
おじさんが軽々と渡してきたので軽いのかと油断しているとずっしりときて危うく落としそうになる。
「だ、大丈夫か?」
「はい、なんとか……」
しっかり両手で抱え込むように持つと辿々しい足取りでひとまず自分の部屋へと運び込む。
そして、部屋に運び込んだあと次は反魔草を買いに花屋へと向かう。
「ごめんなさいね。今日はもう反魔草を置いてないの」
花屋まで買いに来たのだがどうやら反魔草は売り切れのようだった。もしかして何か使い道があるのだろうかと花屋のおばさんに聞いてみる。
「この反魔草って何か使い道があるのですか?」
「何言ってるの? 反魔草と言えば煮込んで飲むに決まってるでしょ。あなたもそれが目当てで来たんじゃないの?」
あれっ、反魔草って食べ物だったのかと研吾は首を傾げた。
「いえ、俺は反魔草が魔法に対して効果があると聞きまして……」
「あぁ、確かにこの反魔草には魔法が聞きにくいわね。でも全く効かないというわけじゃないよ」
どちらにしても売ってないのじゃ調べようがないし仕方ないか。
研吾は花屋のおばさんにお礼を言ったあと、アンドリュー宅へと戻っていく。
「ケンゴ様、必要なものは見つかりましたか?」
「うーん、一つは売り切れてたけどとりあえずはあったかな。そっちは……順調みたいだね」
数日が過ぎ、いよいよ完成間際の建物を見ながら研吾は言う。
「はい、もうすぐ完成します」
「おーい、ケンゴー。今組み立て終わったぞー!」
増築部分の屋根から手を振ってるバルドールが見える。
「お疲れ様ですー。降りてきてください」
「おう!」
バルドールが屋根から飛び降りる。それを見た研吾は焦り、慌てて助けに向かおうとする。しかしそれはミルファーに止められる。
「大丈夫ですよ」
そう言ってる間にバルドールは地面に着地する。
その際、地響きのような音がなる。
研吾は見ていられなかったのでギュッと目を閉じる。
「がはははっ、ケンゴ、どうしたんだ?」
心配する研吾をよそにバルドールは高笑いを浮かべながら何事もなかったかのようにやってくる。
その声を聞いた研吾は恐る恐る目を開き、バルドールが無事なことを確認すると注意する。
「もう、いきなりあんな場所から飛び降りたらびっくりするじゃないですか!」
「そうは言ってもあのくらいの高さ、別に怪我するようなほどでもないし問題ないだろ!」
「普通の人は怪我するんですよ!」
「がはははっ、俺は怪我しないから心配すんな!」
バルドールが研吾の肩を叩いてくる。それを不服に思いながらも本当に無事だったのでこれ以上何も言わなかった。
「でもお疲れ様。大変だったよね」
「これくらいどうってことはないぞ!」
研吾は本当に数日で完成させてくれたバルドールたちを労う。
「このあといつもの酒場でも行く? 俺が支払いをもつよ」
「おう、もちろんだ!」
「お伴します」
ガリューに教えてもらってから常連となっていた酒場へと向かう。すると、すでに半分出来上がってるガリューがカウンターに突っ伏していた。
「おーぅ……、おめぇたちかー」
顔を染め、呂律も碌に回っていない。いつもならこれほど飲まないのにどうしたのだろうと少し心配になる。
「なに、心配することはない。ここ最近儲けがいいからいつもより値段も度数も高い酒を沢山飲んでただけだ」
「あぁ、そういうことか……」
研吾は幸せそうに机に伏しているガリューを横目にいつもの料理を注文する。
次の日研吾たちは王城内にある訓練場へと足を運ぶ。今日の午前中はここを使ってもいいことになったからだ。
「それでケンゴ、どうしてここを借りたんだ?」
「実は少し実験したいことがありまして……」
そう言いながらバルドールに大きな金槌を手渡した。この金槌はガリューに頼んでいたものだが昨日は酔いつぶれていたせいで結局ガリューを家まで運んでいき、ガリューと引き替えに店員のコリンから受け取ったものだった。
「この魔吸石をひと思いに砕いてください!」
「えっ、いいのか? これって結構高いものだろう」
「はい、砕いてもらわないと実験が出来ませんので」
研吾に言われ不審がりながらも思いっきり魔吸石目掛けて金槌を振りかぶる。すると、鈍い音と共に魔吸石が砕けていく。
「そのまま粉々になるまで続けてください」
「おう!」
バルドールが砕いてくれている間に研吾は次の準備をしていく。この世界は建物を塗りで仕上げる場合、粘着草をすり潰して砂を加えたものが使われる。これがモルタル代わりなのだろう。
粘着草をすり潰したものの中に昨日買った防魔砂を加えて的代わりの木の板に塗りつける。
そして、もう一つにはバルドールが今砕いてくれた魔吸石のかけらを入れたものを。
更に魔吸石と防魔砂を加えたものの三つ準備する。
「わざわざ試す必要があるのか? どう考えても二つ混ぜたやつが一番強いだろう?」
バルドールが不思議そうに聞いてくる。
「見てればわかるよ。それじゃあミルファー、あの的目掛けて思いっきり魔法を放ってくれる?」
「良いのですか?」
「うん、実験だからね」
研吾に言われミルファーはそれぞれに魔法を放っていく。
防魔砂を加えたものは魔法を受けた瞬間にあっさりと吹き飛んでしまった。それほど魔法に強いわけじゃないのだろう。
それと防魔砂と魔吸石を混ぜたもの。これも防魔砂だけのやつよりはマシだが少しヒビがはいっている。
「魔法に強いやつを混ぜたからって強くなるわけじゃないんだな」
バルドールが感心したように言う。
そして肝心の魔吸石だけ混ぜたもの。これは吹き飛ぶこともせず、その的は傷一つ付いていなかった。
「魔吸石って砕いても同じような効果があるのですね」
「そうみたいだね。砕いたら効果がなくなったり、悪くなったりするものもあるからね。念のために試したかったんだよ」
結果に満足した研吾のその口は綻んでいた。
それからはどの程度の魔法に耐えられるのかを実験していった。
「まさか私の魔法が魔吸石のかけらを塗っただけで防がれるとは思いませんでした」
最後の方は全力で魔法を放っていたミルファーは悔しさを噛み締めていた。
「よし、それなら俺も!」
気合の入れたバルドールが上の服を脱ぐと右手を固く握り締め腰を深く落とす。そして、そのまま右拳をまっすぐ的に突き出す。
あれだけミルファーの魔法を防いでいた的はバルドールの攻撃で無惨にも音を立てて崩れてしまった。
「……すまん」
申し訳なさそうに項垂れて謝ってくるバルドール。
「いえ、これはこれで……、なるほど、魔法に強いといっても耐久性があるとは限らないんだな。これは何か考えないといけないかも……」
顎に手を当ててバルドールが殴ったあとの的を食い入るように見つめる研吾。しきりに何度も頷きながら小声で呟いていた。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「はい。新たな問題がわかっただけです」
心配そうに見つめるバルドールに研吾ははにかむ。
「それって大丈夫なのか?」
バルドールは一抹の不安を隠しきれなかった。しかし、そんなことをつゆとも知らない研吾はどう対策するか考えていた。
それから残りの魔吸石のかけらを色々なものと混ぜてみて強度が保てるかを試してみたが、結果は強度が上がって魔法耐性が下がるか、どちらも下がるかだった。
(やはり魔吸石のかけらだけを混ぜた方がいいな。となると塗りの方ではどうすることもできないし下地の方で強度をあげるか? となると強度のある木材を探さないといけないけど、今のやつはどうなのだろう?)
気になり出すと止まらなかった。
「あの、バルドールさんって大木を殴って倒せたりとか……」
「ああ、魔法で強化さえすればできるぞ」
(そう考えるとただ単に耐久力が足りないとも考えにくいな。そういえばこの魔吸石って王城とかにも使われているんだよな。それだとそれなりに厚みがあれば大丈夫とか? 確かに的に使っていた物はそんなに厚くなかった。よし、一度試してみよう)
早速的を厚くして試してみる。結果はバルドールの力がすごいことだけしかわからなかった。 しかし、それはバルドールの力が凄かっただけで側にいた兵士の人に協力してもらって的を思いっきり叩いてもらったが、的が壊れるような事態にはならなかった。
「うーん、これくらい強度があれば最低限大丈夫かな?」
的を叩きながら悩む研吾は念のためにそれなりの厚さの木の板をもう一枚壁の部分に貼ってもらうことにした。
そして、その上から魔吸石のかけらと粘着草を混ぜたものを塗っていった。表面は少しザラザラとした感じになり、色は薄めのクリーム色といった感じになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます