第10話 私に任せるんでしょ?

仲間って、あなたにとってどんな存在?


私の場合、神族は部下みたいなものですし、家族は家族だし、骸骨村の村の衆や村の子達は「賢者さんの孫娘」とか「女神さんちの娘さん」みたいな感じで知り合いではあるけど、どれも与えられた存在よね。自分から構築した関係ではないの。



叔父様の教団長は、『鉄棍会議』で働いている、友人を呼び出したの。

「何をやらかしました?」

「あなた、相変わらず、冒険者に偏見あるのね」

「いいえ、あなたが無茶をすると考えているだけです」

「私が冒険者の評判を下げてるわけかあ」

「ええ」(ニッコリ)

「じゃ、あなたは不安で夜眠れなくなるかな?」(悪い顔で)


精霊王がまだ少年だった頃、もちろん歌の母様にプロポーズする前のことね。エルフの里でちょっと嫌な出来事があって、おっとりしてる歌の母様に変わって潰しに行ったことがあるの。

問題を起こした5人の若者エルフ達は、少年時代の精霊王に、「里を滅ぼす」「世界が狭すぎるので王都の学院で見聞を広げる」という2択を突きつけられたわけ。


現長老・華の母様(華の君)・叔父様の教団長・王都に仕え精霊たちから「自然災害」に関する情報を受け取り周知する人、そして今、叔父様の教団長の話を聞いているのが5人目ね。


『鉄棍会議』は主に「停滞と衰退」の問題を扱っています。

お祖父様が、寒村に住み着き村の暮らしを改善し「骸骨村の賢者」として知られたことから、それぞれの村にお祖父様の代わりになるような人物を派遣することも、仕事の1つです。「5人目」とお伝えした方は、長く村を見守り、その経験を元に今は『鉄棍会議』で仕事をされているわ。


「――『眠りと終末の神』が役割を変え、末の神として活動されていた?」

「そ」

「確かに、あなたは神官Lv80になっていますね。あなたに信仰心があるとは」

「ないわよ」

「?」

「教団を作って布教することは頼まれたけど、さっさと冒険者に戻りたいもの」

「風のようなあなたなら、そうでしょう」

「で、神族が、精霊達からの頼みで、世の中の仕組みをいじるんだって」

「なるほど。その変化を支える教団を作るわけですか」

「こういう変化が起きることを把握したいでしょ、『鉄棍会議』としては」

「そうですね」

「情報ってタダじゃないのは分かる?」

「もちろん」

「じゃ、各国への周知お願い。布教は自力でやるから、

 毛色の変わった教団が生まれたことだけ知らせてちょうだい」

「約束しましょう。くれぐれも、お手柔らかに頼みますよ」


創世神話で「眠りと終末の神」として知られていた叔父様も、やっと末の神として人々に知られることになりました。



叔父様の教団長は、お父様のところにも来ました。

「うむ。良く鍛えてある」

「いえ、まだまだです。歌姫の娘、火の君の域には及ばないですから」

「あの子は、鉄棍女王から秘技を受け継いだからな」

「精霊魔法使いとしても、及びません」

「自分の分際を理解してるヤツは、伸びる。で、今日は何だ?」

「私が末の神の教団長を任された件はご存知ですか?」

「ああ」

「あなたの弟さんは、人を見る目大丈夫です?」

「オレは信頼している」

「そう。彼が私に任せた教義だと、武神様の所の子達から改宗する者も現れます」

「そうか」

「他の教団と異なり、武神様が力でねじ伏せた者たちです。よろしいの」

「まったく構わん。なんだ、わざわざ挨拶に来たか?」

「女神様に捕まったことはともかく、あなたは人からただ1人だけ神になりました。

 私達冒険者の伝説です。不義理はできません」

「オレの所は、知っての通り、荒くれ者やモンスターが多い。

 教団として組織も出来ていない。全員可愛い我が子だ。だからこそ、

 あいつらが望むなら、お前が面倒見てやってくれ」

お父様は、教団長へ深々と頭を下げました。



その頃、歌の母様のおうちでは、華の母様がぼやいてました。

「ねえ、私達、出産も子育ても経験したじゃない?」

「ええ」

「規格外中の規格外である、あの子(母神)の子育てに、私達も関わったけど、

 良くない影響与えたのかな」

「なあに、あたの自慢の教え子であり娘でもあるあの子が、信じられない?」

「信じてますよ。ただ、甘えグセがさ」

「うんうん」

「あなたの3人の子にしろ、私の子達にしろ、普通に親離れしたじゃない」

「そうね」

「あの子は親離れする予定無いって」

「『今は』でも『ずっと』でも、私は構わないわ」

「呆れた。理由は?」

「あの子は、大きすぎる力に怯える子だったでしょ」

「ええ」

「今だって、不安は抱えたまま、仕事してるの」

「そうね」

「神族の長でしょ? そもそもあの子が産まれたこと自体が、先代『母神』の

 予想外なわけでしょ。

 どう育ち、どう心身のバランスを取るのか、誰も分からない」

「まあね」

「誰も分からないなら、私は寄り添う。これが私の答えです」

「歌姫は、ただ甘やかしてるわけじゃないのね。分かった、私も乗るわ」

「無理しなくていいのよ?」

「私達の子孫と比較して、戸惑っただけ。別に無理はしてない」

「ふふ、良かった。頼りにしてるわ」


――育ての母達が、私を「覚悟」して甘やかしてくれてるのを知るのは、なんだか恥ずかしいわね。親離れかあ。……うん、寂しいから無理。


私がならいいんだけどね。確かに能力自体は高いけど、それを扱うのは経験不足の小娘じゃない? 正直、今でも『母神』やることは、怖い。

だから、甘やかして貰えるのは、助かってはいるんだ。



私は、快適に散らかったお部屋から、叡智の女神に仕事を依頼しています。

『――というわけで、「鉄棍会議」から周知された諸国の王の1人を見てくれる?』

『彼は私に不安を祈っていますね』

『そ。やり方は任せるから、落ち着かせてあげて。王が揺らげば、周りも困るもの』

『お引き受けします』


叡智の女神は、自らの教団長に事情を説明したの。

「女神様、他国の王ですから、私どもが説明するよりも、

 女神様ご自身が降臨された方が安心するのではないでしょうか」

「そうね。あなた達が努力して、ダメなら私が降臨しましょう。

 でも、原則として、あなた達の手で行うことが望ましい。これが私の答えです」

「出過ぎたことを申しました」

「構いません。私があなたに与えた神聖魔法の奇跡と、

 あなたが培ってきたあなたの叡智で、解決に当たる姿を楽しみにしていますよ」



その頃、叔父様は新居の居間で、妻の陽の君に、小町の母様に選んでもらった薄手で可愛らしい寝間着を手に、頼み込んでいました。

「やです」

「しかしですね」

「うちの里では、裸で休むのが普通なの」

「私まで裸なのはどうかと!」

「あら、私の体はお嫌い?」

「そういうことでは無くてですね、落ち着いて眠れません!

 考えてみて下さい。私にとって一番美しい異性が裸で隣にいるんですよ」

「何がいけないの?」

「落ち着いて眠れません」

「あなたが寝かせて下さらない時はともかく、

 私は、あなたにぴったりくっついて眠ると、熟睡できます」

「ふむ」

「窮屈な寝間着なんてやーよ。あなたが私の文化に慣れて」

「慣れるものでしょうか」

「ふふふ。子守唄でも歌いましょうか?」


うちのお父様とお母様もそうだけど、叔父様の意見も通らないみたいね。

ねえ。神族と結婚すると、尻に敷きやすいのかもしれないわよ?



その頃、叔父様の教団長は、PTの仲間達と話をしていました。

前衛戦士・男「すまん、オレは興味ない」

教団長   「あいよ」

神官・女  「私は美の神の神官だけど、つきあうわよ。改宗させて」

教団長   「あんたが来てくれるなら、助かるよ」

魔法使い・男「姐さんにはガキの頃から世話になってる。ついてくよ」

教団長   「無理してないかい?」

魔法使い・男「姐さんと離れた方が、後悔するよ」

教団長   「可愛いこと言ってくれるじゃないか」

前衛戦士・女「私は冒険者をやり尽くした。興味あるよ」

教団長   「助かるわ」

ドワーフ・男「しかし、姐さんと神官らがこれだけ抜けるとなると痛いな」

前衛戦士・男「オレら2人でPT組み直しか。ことに姐さんが抜けるのが痛い」

ドワーフ・男「ああ。槍使いとして前衛、高位精霊魔法使いとして

       後衛の大火力も出せるのは姐さんだけだからな」

教団長   「あんたらは、私の宝だ。一生冒険者やりたいんだろ?

       私だって、目処がつけば戻りたい」

前衛戦士・男「戦士・神官・魔法使いはどうにかできるが、姐さんの穴がなあ」

教団長   「前衛と後衛がやれる子なら、精霊魔法使いじゃなくていい?」

ドワーフ・男「いるのか?」

教団長   「サッキュバスの子が、魔法と戦士Lv85だから紹介するよ」

前衛戦士・男「待てまて。オレら食われるんじゃないのか?」

教団長   「たまに、悩ましい夢を見るのと、普段、目の毒な程度?」

ドワーフ・男「私は構わんぞ」

前衛戦士・男「そりゃ、お前はドワーフの女以外興味無いからだろ」


――彼らは結局、サッキュバスと会うことにしました。教団長と行動を共にする者たちは、仲間との別れを済ませ、それぞれの部屋で荷物をまとめています。


教団長   「急に呼び出してごめんなさいね」

サッキュバス「いいのいいの。あら、好みの男」

前衛戦士・男「オレじゃないよな」

サッキュバス「あなた、いい匂いする。気に入った」

ドワーフ・男「ダンジョンに潜ってみなければ分からんが、ステータスは問題ない」

サッキュバス「淫靡なことから、大火力まで、私は出来る子よ?」

前衛戦士・男「不安しかない。PT募集どうすりゃいいんだ……」

サッキュバス「人間の女の子のフリするから、騙しちゃえば?」

教団長   「いいねえ。3人とも、困ることがあれば言うのよ」

      「「「うっす、姐さん」」」



お祖父様は、人間としてはかなり鍛えてある賢者です。お祖父様のを読まれた方なら、ご存知かもしれないわね。普段は村外れの洞穴を組みかえて、書斎や部屋として使っています。私が大人になったし、最近は村も平和だし、村の子の相手をしたり、魔導書を読んで過ごしています。動物たちが遊びに来ることもあるのよ。


「賢者の爺ちゃん、話聴いてくれるか」

「つい最近、飴玉を喜んでいた坊主が、竜の亜人達の族長になるとはなあ」

「あのねえ、それ300年以上前だよ、爺ちゃん」

「過ぎてみれば一瞬なんじゃよ」

へきの体のことなんだ」

「うむ」

「あのままだと、大人になる前に自滅する」

「そうだな。だが、あの子はお前のひ孫じゃろ? 両親はどうした」

「孫娘が身重で、無理させられないんだよ」

「夫はどうした」

「孫娘に付き添ってる」

「あの子は、お前達夫婦の、末娘の子だったな」

「うん、竜族の亜人と家庭を持った娘だね」

「実家の両親に、半日任せることは出来るか?」

「その程度なら」

「曽祖父のお前が動くのではなく、本来は両親が相談に来るのが筋じゃろ。

 彼らの考えを聞いてあげなさい」

「ちょっと行ってくる」


竜族の族長は、お祖父様から昔習った「転移」の魔法で、竜族の里へ行きました。碧のお母さんは、二番目の子の妊娠が、けっこう大変みたい。つわりは重いし、不調も色々あるし。でも、碧のことだから来たいみたい。

彼女の夫がなだめて、実家の両親へ妻の見守りを頼み、族長と共にお祖父様の洞穴へやって来ました。


碧父「族長様に任せっぱなしで申し訳ありません」

賢者「奥方のことは大丈夫か?」

碧父「はい。義母達に頼んであります。

   妻からもくれぐれもよろしくと言付かって参りました」

族長「お前は、自分の親父を見習って、もう少しゆったり構えろ」

碧父「美の神である父のことは、未だに受け入れられないのです」

賢者「族長は気を使うなと言いたいんじゃよ。まあ、2人ともかけなさい」


賢者「碧の規格外の体が、成長止まらない件だな。

   あの子には、魔王・竜族・半神の血が受け継がれている。

   残念だが、病の一種だ」

碧父「では、これから産まれる子も……」

賢者「育ててみないと分からんだろうな」

族長「爺ちゃんならどうする? 神族に『書き換え』を頼む?」

賢者「難しいな。例えば末の神から『終末』という役割を切り離す

   程度なら書き換えの影響は小さい。『仕組み』の変更だからな。

   だが、碧の場合は、そう生まれついている。

   都合の悪い部分だけ『書き換える』ことはできんぞ」

碧父「何らかの影響が出るのですね」

賢者「あの子が安心して大人になるためには、何か失うことになるだろう」

碧父「私がその代償を支払えませんか」

賢者「息子と変わってやりたいお前の気持ちは分かる。だが、これは呪いでは無い」

碧父「己の無力さが無念です」

族長「爺ちゃん、碧はあとどれくらい普通に暮らせる?」

賢者「あそこまで巨大化して問題が起きていない時点でおかしい。

   今、碧が苦しみだしても、ワシは不思議ではない」

族長「碧の父として、お前はどうしたい?」

碧父「族長様ご夫妻にお委ねします。私に出来ることがあれば、

   どんなことでも申し付けて下さい」

族長「出来ることはあるぞ。このことはお前の妻に聴かせるな。

   碧の弟か妹が、安心して生まれてこれるように、妻を守れ」


碧の体のことは、確かにお祖父様の言うとおりなのよね。

正直、読み解くのに時間かかりますから、これ以上悪化する前に『凍結』させたいくらいなの。でも、彼らから話がくるのを待ちましょう。



叔父様は、教団長に呼び出されて、王都郊外の荒れ地に居ます。50人くらいの荒くれ者やモンスターに囲まれているわね。あらあら。

エルフって華奢な体してるけど、冒険者すると鍛えられるのかしら。教団長は、叔父様の隣で、周囲を囲んでいる者たちに、とびきりの大声で呼びかけました。


「輪廻転生の輪から出て、精霊になるなんて、夢見がちなクソ野郎ども、お聞き」

「「「「「うす!!」」」」」(野太い声)


「この、イケメンがお前らの信仰する神だよ!」

「どうも、末の神です」

「「「「「うす!!」」」」」


「堅気の皆様に、迷惑かけたりしてないだろうね!」

「「「「「うす!!」」」」」


「お前たちは、生まれ育った世界を捨て、精霊を目指すなんて、クズだ!」

「「「「「うす!!」」」」」


「でもね。お世話になったこのクソッタレな世界に

 クズにはクズのやり方で、恩返しと洒落込もうじゃないか」

「「「「「うす!!」」」」」


「お前たちは望むなら、末の神が、精霊として生まれ変わることを確約する。

 だからって、急いで死ぬんじゃないよ。残りの命を使って、

 それぞれが出来ることをしておいで。お前たちのケツは、末の神に持たせる。

 愛してるよ、可愛いクソ野郎ども!」

「「「「「うす!!」」」」」


「私は、上品なやり方が苦手でね。ご覧の通り、信仰心も薄い。

 だから、後継者は大歓迎さ。私の寝首をかけるヤツ、待ってるからね!」

「「「「「励みます、姐さん!!!!」」」」」


叔父様は、教団長が、初期教団の信者達に向けた就任の挨拶にめまいを覚えています。教団長の冒険者仲間だった神官(改宗済み)や元魔法使いが、「あれは、一番機嫌が良い時なんですよ」と慰めてるわね。


この教団長なら、叔父様に遠慮しないでしょ。叔父様の希望通りの人なのに、慰められてるなんて変ねえ。私は神族として表に出ていけないから、自分の教団持てないじゃない? ちょっと羨ましいけどな。


荒くれ者には荒くれ者のやり方が、きっとあるのよね?

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