第2話 日常

朝起きると眩しい朝日が部屋に射し込む、今日も平和な毎日の始まりだ。

私は県立南野高校二年藤埼あゆみ、ソフトボールチームのキャプテンをしている。

部員は少なくても皆を引っ張っていかなくてはならない。

朝倉舞が入部するまでは私がキャッチャーをしていたがなんともピッチングに不安のあるチームであった。今年、彼女が入ってからはキャッチャーのポジションを任せる事が出来て私はピッチャーに専念することが出来た。

ある日の事である、明日は朝倉舞の誕生日だと知り皆でサプライズを考えていた、ケーキが大半の意見だったが私はいなり寿司を提案した。

少し遊び心が過ぎたかもしれないが結局、ケーキと両方を用意する事になった。

私達は彼女を部室に来るように伝えた。部室は部室棟の一番奥にあり看板だけは立派である。彼女が何時もの様に部室に入って来ると、

「お誕生日おめでとう」

「えぇ!!!!」

朝倉舞は予想以上に驚いてくれた、

作戦は成功である。

ここで、いなり寿司を出してガッカリさせてからケーキを後からプレゼントする手はずである。

「プレゼントはこのいなり寿司だよ」

「え、嬉しい」

あれ?喜んでる……朝倉舞は嬉しそうに食べ始める。

驚いのはこちらの方であるケーキどうしよう。

「あの~ケーキもあるのですけど」

小声で打ち明けると、彼女は笑顔で、

「ケーキもあることを知っていたよ。でも、先輩の作ったいなり寿司の方が嬉しかったよ」

そう、ケーキはお菓子屋で買ったのだが、いなり寿司は私の手作りであった。

彼女の情報網を甘く見ていた。

「先輩の誕生日には私が手作りケーキをプレゼントしますね」

ケーキは紆余曲折経て私が食べる事にシンプルなショートケーキなのだが甘く口の中に広がる味は、それは美味しかったのである。

ホント可愛いい後輩が出来たものだ。小さい頃からソフトボールに打ち込んできた私とは何かが違う、人を引き付けるオーラの様な魅力が彼女にはあった。不器用な私の心は少しずつだが彼女なしの生活が考えられなくなっていた。

 その日の帰り道、朝倉舞は不思議そうに私に訊ねてきた。

「何でいなり寿司だったのですか?」

「死んだ祖母がよく私の為に作ってくれてね、それを思い出していなり寿司にしたのだよ」

私は空を少し眺めた、夕暮れのくすんだ色は心に残る気分であった。

「先輩、私にいなり寿司の作り型を教えて下さい」

ホントに素直な子だ、私も見習わなければ……。

「よし、分かった、教えてやる」

「はい」

朝倉舞は元気よく返事を返した、その眼に曇りは無くただただ純粋なものであった。

私はセミの声を聞きながらグランドのベンチで横になっていると朝倉舞が声をかけてくる。

「先輩、一人で何をしているのですか?」

「お前か、ここは木陰になっていて気持ち良いのだよ」

「暑いですね、もうすっかり夏です」

朝倉舞の気配が一瞬消えた様にみえた。何だろ、朝倉舞が遠くに行ってしまう様な気がした。

「先輩、どうしたのですか」

「イヤ、なんでもない」

そう、何でもない事だったのだがそれはムシの知らせだったのかもしれない。

朝の夢の様な気分の私は握り拳を額に当て気合を入れ直す。

「地区大会ももうすぐだ、軽く走るか?」

私達は古びた学校のグラウンドを走り始めた。

グランドに聞こえて来るのはセミの声だけの閉ざされた空間で走りながら私達は語りあった。

そして、部活終わりに皆でアイスを食べる事にした。

カップ状のものと棒状のものと二種類ある。

しかし、さじは無かった。

カップ状のアイスは二つ、つまり、二人だけアイスを食べられないのである。

食べ物の恨みは怖いここはキャプテンである私はともかくもう一人をどうやってきめよう……。

私は難しい判断に迫られていた。

「先輩?どうしたのですか?」

朝倉舞が心配そうに言う、彼女は本当に優しい人だ。

細やかな点に気が付く。

「いや、食欲が無くてね、アイスはまた今度にすくよ」

「なら私も……」

ダメだ、ここで朝倉舞がアイスを食べられなければ何か後悔しそうな気がした。

「ファーストの卯木崎!!!今日はエラーが多かったな」

「は、はい……アイスは諦めます」

「先輩、急にお腹が痛くなりました、アイスは要りません」

そうか、そうだよな……朝倉舞というのはそんな人柄なのを忘れていた。

「そうか、なら仕方ない、私達は水で我慢するか」

「はい、先輩となら……」

こうしてアイス騒動は収まった。

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