【無料試し読み】結城光流『我、天命を覆す 陰陽師・安倍晴明』
KADOKAWA文芸
第一章_1
生者の
命
それは境界の川。
あちらは
川の
転生の輪に再び
人はいつか、この川を必ず渡るのだ。
ならば。
人と
それとも。
人に
一
さして高くはない身分相応の小さな
それらを横目に見ながら、その
「
部屋を仕切るふたつの
ずっと
「お
言い差して、公達はふと
「それでも、私が
返答はない。
公達は構わずにつづけた。
「もうじき
公達はそう言って、目を細める。
「さぞかし美しいでしょう。姫も
ひと呼吸置いて、公達は言い
「あるいは、姫ご自身のさだめに、気づかれるやもしれませぬ」
几帳の向こうで、かすかな
「……さだめ……?」
弱々しい
「左様。この世に生まれる以前に、姫が選ばれたさだめ」
「そのような、ものは……」
か細い言葉をさえぎって、公達は断言した。
「あるのです。決して
細められた目の奥で、深い色の
「そう、それは。まさに天命と呼ぶべきものなのですよ、姫」
公達はそのまま、几帳に手をかけようとした。しかし、足音が近づいてくるのに気づいてやめる。
辞去の
彼が去ってから
「……天命…………」
両の手で顔を
とうに、知っている。天命は、さだまっている。
だから決して、あの公達の
「…私は……もう……」
さだまっている。
◆ ◆ ◆
ふと、風とともに、花の
『───
音もなく開いた
呼ばれた名は確かに
聞こえなかったふりをして、
彼は舌打ちした。花の香をまとった
花は
明かりの消えた
衣を通しても伝わる体温。熱い
晴明は息をつき、女の
体と心はうんざりするほど別物だなと胸の中で
明かりはないが、闇に慣れた目は物の
女の
気だるさを覚えながら、ちらと視線を
情事の最中もそうだが、こうして身を横たえているときも、会話らしい会話はろくに
晴明は、
だるく、体が重い。この女と肌を合わせたあとはいつもだが、回を重ねるごとにそれがひどくなっていく。
彼はその理由を知っている。女の性は
しかし彼は、
生にさしたる
だが、思いに反して自分はまだ生きている。奪い尽くされる気配もない。存外この身はしぶといようだ。残念なことに。
死ぬほど奪われるとは、どのようなものか。興味がないと言えば、それは
その程度だ。
「……吸い尽くされる、か……」
ひっそりと呟いた晴明の
海を
「…………」
しかし晴明は、そこで考えるのをやめた。
倒す手段を講じてなんになる。時間の
いっそ女が氷のような肌であれば多少は
出仕も面倒だが、これも仕方がない。
仕事より面倒な男がいるのだが、あれはどうにかできないものか。
◇ ◇ ◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます