第8話新キャラと勝負賭け

 あんなカッコ恥ずかしい事を言ったにも関わらず、俺の頭と原稿用紙は真っ白だった。


 なお今週の順位は12位と先週から3位落としてパッとしない順位。

 来週には連載会議だと言うのに一度上がった順位をキープできないでいた。


 来週の順位次第では打ち切りも平気でありえるという現状。


「自分の漫画のダメなところってなんだ…」


【コンコン】


 窓から何かが叩く音が聞こえる。

 俺の部屋は二階だ、二階の窓を叩くことが出来る人物といえば1人しかいないだろう。


 カーテンを開け、窓を開ける。

 窓の向こう側で待ってた北野さん。


「どうしたの?こんな時間に」


 現在の時刻23時40分。

 深夜にも関わらず彼女は俺に用があったのか?


「今から南雲君の部屋に行ってもいい?」


「…は?」


 家は隣、すぐ来れるが、そういう問題じゃない。今深夜の23時だぞ!?

 そんな時間に年頃の男女が同じ部屋に…。


 男の俺としては嫌でも変な事を考えてしまうじゃないか…!


「ほら、同じ漫画を作るんだし…一緒に考えた方が…良いかなーって」


「いや、別に今来なくても…」


「どうせ何も考えついてないんでしょ!?今行く!」


(よくわかっていらっしゃる…)


 所々強引になるよねこの人…。


「わかったよ…」


「やた!」


 許可すると彼女は笑顔で窓を閉め、こちらに来る準備(?)をしだした。


 何かあっても俺は責任とらないぞ…!!


 一階に降り、親にお隣さんが来る事を伝えようとしたがリビングには姿はない。電気も付いてない。


「もう寝たのかな…?」


 家の鍵を開けた時【コンコン】と家の扉を叩く音が聞こえ、俺は扉を開ける。


「こんばんは♪」


「いや、さっき話したじゃん…」


「そこは気分だよ〜」


 ものの数分で彼女は俺の家に来た。

 お隣だから当然か。


 俺の部屋に招き入れると、彼女は持って来た荷物を取り出す。


「なにそれ…」


 よく見ると手に持ってたのは、大量のバトル漫画とRPGのゲーム。


「今日の勉強道具!」


「なんで持って来たの…」


 有名どころのゲームや漫画もあればマニアックな物まで幅広く持って来た。


「南雲君の話ってバトル漫画だし、勉強になるかなって!」


「うん、持って来てくれたのは嬉しいけど、それ全部俺の部屋にあるよ?」


「………」


 案外北野さんが考えることは単調なのかな?

 バトル漫画を考えているんだ、俺が他のバトル漫画を読んだこと無いと思ったのだろうか?そんな事あるわけなかろう!


「……帰ります」


 シュンと落ち込んで、部屋を出ようとする北野さん。


「おい、ちょっと待て!勝手に落ち込んで勝手に帰るな!」


 帰ろうとする彼女の手を掴む。

 まだ帰さないぞ?と、言うような感じで。


「だって!こんな深夜にお邪魔したら失礼じゃないですかっ!」


「もう、お邪魔してるから!!現在進行形でお邪魔してるよ!!」


 人とは理不尽な生き物だ。

 突然来ると言われたら『え、来なくていいよ』と思いそして、突然帰ると言われたら『え、帰らないでよ』と思ってしまうのだから。


「まぁ帰るなら止めないけど…別に持って来たの物が俺の部屋にあるってだけで、考える事は無駄にならないと思うけど…?」


「それも…そうですね、じゃあまだ帰りません」


 やっぱりこの子単純ですわ。


 漫画家だから漫画を好きだと言うのは納得だ。

 だが、RPGのゲームを北野さんが持って来たのは意外だったな。


「北野さんって普段からゲームするの?」


「やりますよ?普通に好きです。それに…」


「それに?」


 持ってきたゲームソフトをハードに入れ、ゲームを起動させる。


「3Dのゲームだと、こうアングルを変えていろんなポーズができるんで…っ絵の勉強になるんです!」


 そう言ってゲームのキャラをクネクネといろんなポーズを取らせる。


「なるほど、その発想はなかったな」


 絵描きも色々と不空してるんだな。

 また1つ経験値を手に入れた。


 俺は漫画を読み、北野さんはゲームをして時は深夜3時。

 ゲームや漫画を読んでたって、漫画が完成するわけではない。

 時間だけが刻々と無くなっていく。


「…つまんねーな」


「それ言わないでくださいよ…」


「だってこのシーンもう20回は見たわ」


「それを言ったら私だってこの敵20体は倒してます」


「RPGにレベル上げは必須だろ?まだ20じゃん効率を求めろ効率をー」


「RPGだけじゃなく、現実にもレベル上げは必須なのでは?漫画を読みながら原作書くレベルに達してないんですよ、南雲君は」


「アイデアが出ないんだよ、てか北野さん俺の話作りを手伝いに家に来たんじゃないの?いつまでゲームしてるんだよ」


「南雲君がアイデア思いつかないんですもん、私じゃもっとアイデアなんて出ませんよ…」


「「はぁ………」」


 出るのはゲーム音と俺たち2人のため息だった。


 これが壁ってやつなのかな?

 帰り道がわからない俺の帰り着いた先は…打ち切りだった…。


「そんなのダメだぁぁぁあ!!!」


「…っ!?」


 俺が突然大声を上げたから北野さんはびっくりした表情でこちらを見つめる。


「真面目に考えるか…」


「そうしましょう…そう言えば疑問に思ったんですけど、南雲君って新キャラ出さないんですか?」


「……新キャラ?」


 北野さんが新キャラのアイデアをくれた、連載してから約1年が経つ俺のバトル漫画。

 そう言えば新キャラなるものが出ていない。


 バトル漫画に重要なのは主人公より、敵となるライバルキャラの方が重要なんてよく言う。


「それだ!!」


 おそらく約1年経った今、今の敵キャラにマンネリが出て来たのだ。

 もっとよりいい敵を出せばまだ可能性はある。

 かもしれない…。


【数時間後】


「新キャラ…それはいいけど…インパクトが出ない…」


「こんな感じのキャラでいいですかね…?」


 画用紙に描いた新キャラのイラスト、見た目は文句なし、ただそれを動かす中身ができない。


「良いと思うけど…問題は中身なんだよなぁ…なんかインパクトのある登場シーンが欲しい」


 初めは敵キャラとして召喚して、実は仲間!?で読者を引く。

 ベタで使いまわされてるが1番燃える展開の1つだ。


 だが、そんな事してる余裕は今の俺の漫画に持ち合わせてはいない。

 チャンスは来週のたった1話のみ。

 それでそんな超展開はできない。


 ほら、ギャルゲーとかでも簡単にヒロインを落とせたらつまらないだろう?工程というものが必ず必要なのだ。


 フラグが大事なんだフラグがぁ!!


「いっそ今のキャラを殺してしまう…とか?」


「…………」


「ごめんなさい…」


「いや、割とありかもしれない」


「そ、そうですか?」


 約1年間敵キャラとして活躍して来たキャラだが、逆言えば読者がそのキャラに飽きて来たという事。

 それならいっそ殺して、新しい新キャラを登場させた方がインパクトは強くなるだろう。


 邪魔者は排除してしまえばいい!

 我の道に邪魔者など不要全て排除!!!

 そのぐらい悪っぽい方がキャラが立ってると思うんですよ。


 こうして、勝負賭けの話で新キャラを実装するのだった。

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