偽物の流星

Shao-しゃお

偽物を本物にする方法

第1話出会いも偽物


 昔、1度だけ偽物の流星を見たことがある。

 偽物と言ってもその流星は幻想的で、実は本物の流星より感動するものがあった。


 今から5年前、田舎のおばあちゃん家に来てた。

 そして、その夜に田舎の村にある森の中で俺は迷子になっていた。

 興味本意で森の中に入って、そのまま迷子になった。

 わけもわからず迷いながら歩いていたその先に、緑色に光る、蛍が大量に群がる湖にたどり着いた。



 その蛍の姿はまるで流星のようだった。

 これが、俺、東雲南雲しののめ なぐも10歳の時に見た偽物の流星。


 その時、泉の向こうにかすかに見えた人影。

 同い年ぐらいの少女だ。

 暗がりの夜道だ、あまりはっきりと顔は見えなかった。だが、その向こうにいた人の顔は、俺と同じように偽物の流星を見て、感動して笑顔だった。


 俺は、その流星と同じように、その少女の顔を忘れることはないだろう。

 だってその顔は、初めて俺が感動した顔と同じ顔をしていたのだから…。


 そして今2度目の偽物の流星を俺は眺めている。


 今は、1人だけ。


「あぁ、そうだ、こんな光だった…俺はこの光を見たくてまたここに来たんだ…」


 だが、それ以上に見たいものがあった。

 そう、5年前ここで出会った名前も知らない彼女の笑顔をまた見たいから。


 なんでかな、会ったことも、話したことも無いのに、ここに来ればまた出会える気がしたから。


 しかし、偽物の流星を見ても、5年前みたいな感動はなく、心の中でズキン…ッと胸に刺さるものがあり、その気持ちに今、俺は気づく事はなくただ偽物の流星を眺めているだけなのだ。


(もう、ここに来る事はないだろう…)


 ただ胸が痛くなるだけ。

 こんなことになるなら、ここに来るんじゃなかったな…。


 あれ、なんで俺ここに来たんだろう…?

 そうだ、ここに来たら何かヒントをもらえる気がしたから、あの時の気持ちに戻れる気がしたからだ。


 そして、また彼女に会える気がしたから…。


「あぁ…帰り道わかんねぇ…!?だから外は嫌なんだ…」


 俺は極度な方向音痴、だがしかし目的地にはちゃんとたどり着く。

 だが、帰れない、帰り道がわからない。


 そう、たどり着いて帰れない。


 まるで今の俺の人生みたいに…。


「おい!本当に東雲先生は来れないのか!?パーティーに参加できない先生の担当は罰ゲームだからな!」


 東京のど真ん中にある、有名漫画会社『ジョーク』の新年会パーティーだ。

 パーティー会場には黒塗りの高級車がゾロゾロと並んで止まっている。


 連載している作家さんはパーティーにはほぼ強制参加だ、それに参加しない作家の担当は罰ゲームらしい。


「東雲先生は外に出たくない、それに今東京に居ないみたいなんです!!」


 俺の担当編集はどうやら俺のせいで罰ゲームを受ける、そんな事知ったことか。

 それに、今俺は東京にいない、田舎村の森の中さらに言えば絶賛迷子中だ。


 そう、俺は有名少年漫画雑誌で連載している漫画家だ。

 漫画家と言っても話専門、いわゆる原作者って奴だ。絵は描けない、だが話を考えるのは好きだ。

 たどり着く所にはたどり着いた、だがなんだ、この有様は。

 今の迷子の俺みたいに、目指すところは目指して、帰り道はわからない。


 それ以上もそれ以下でもない。


「はいってことで、パーティーには行けません、それじゃ…え?原稿、あぁ、はいはい大丈夫ですよ。帰り次第そちらに送ります…はい、それじゃ」


 森の中で迷子になりながら、担当編集との電話を切り上げる、電話越しの声はどこか萎え気味だった。

 そんなにひどい罰ゲームをさせられるのだろうか…?


(ま、帰り道なんて知らないんですけど…)


 まぁ、萎えてるのは俺も同じ。

 途方にくれながら、俺はゆっくりと帰り道を探した。


 そして、田舎のばあちゃん家に着いたのは夜が明け朝日が昇っている頃だった。

 そりゃ、親には怒られたさ、『こんな時間まで何してるんだ!?』ってね。


 いいじゃないか、もう15歳だぞ。

 まぁ…朝帰りなんて、酒で酔っ払ったサラリーマンかよってツッコミをしたくなる気持ちは自分がよく分かってる。

 しかも、迷子で夜道をさまよってたなんて、下手したらそのサラリーマンよりダサいぞ…。


 帰宅すると、速攻で自分の部屋にこもり、まとめていた文章原作を編集部に送る。

 これで新年初めの俺の仕事は終わりだ。


 しばらく部屋から出たくないね、近所のコンビニですら出ない俺だ。

 理由は簡単、帰れないから!!


 見慣れた近所のコンビニでも俺は生まれて1度もまともに家に帰って来れた事がない。


 え?お前15歳だろ?学校は?ってか?

 行ってると思うか?高校に入った俺だが1度たりとも学校には行ってない。


 理由は簡単、帰れないから!

 小学時代は通っていた、だが1度たりともまともに家に帰宅できたことはない、毎日母親が小学校に迎えに来る。

 えぇ、まぁ毎日俺は授業参観の気分ですよ。


 小学時代はそんな事はさほど気にしてなかったが、中学に上がって気分も精神的なことも変わるだろう?


 さすがに嫌になって来る。

 それから俺は引きこもり状態だ。


 中3のそんなある日、有名少年漫画会社の記事であるものを見た、よくある漫画の新人賞のやつだ。


 俺は昔から漫画やアニメやゲームは大好きだ。

 漫画とかよく描いていた(まぁ連載漫画のパクリだけど)みんな子供の頃なんてそんなものだろ。


 しかし俺は絶望的に絵が描けない、そこで俺はあるものを目にする、原作者募集…?


 そう、よくあるだろう?漫画を描く原作者が。

 それの新人賞だ。

 その時俺は中3だ、受験なんかする気もないし、かと言って家にずっといて親の文句をいちいち聞く気分も精神も持ち合わせていない。


 そんな俺が外に出る必要がない職業そう、漫画家。

 駄目元で適当に書いた文章原作を新人賞募集の欄に送った。


 そしたらびっくりその作品が新人賞に入選したのだ、そう、俺はたどり着く所には行くのだ。

 帰れないだけで…。


 そしてそのまま原作者として漫画家デビューを飾った。


 俺の原作を漫画にしてくれている先生とは1度だけあった事がある。

 去年の今頃、新年パーティーの時初めて俺は『北野シンデレラ』という女性の先生と顔合わせをした。


 勿論ペンネームだ、本名は知らない。

 そして、シンデレラと言う名だが、とても王子様がガラスの靴を持ち探しに来るような容姿じゃない。


 低身長にボサボサの長い黒髪に丸眼鏡をしていて、体型は超肥満。

 びっくりなことに俺と同い年で漫画家デビューしている。担当編集には『同い年高校生コンビだね!』などと言われ煽られる。


 俺は言葉が出ないくらい衝撃だったね、まるでテレビに出て来そうな人、いや、すでに出た事あるんじゃないの?この人っていうくらい。


 うむ、それは事実だが、言っちゃ悪いがこんな人とコンビとはなかなかキツイ響きだぞ。

 だがしかし、絵のレベルは素晴らしいもの。俺は黙ることしかできない、そう黙って文章原作を書き続ける…。


 それ以降彼女とは会っていない。


 冬休みは終わり、ど平日の月曜日、会社に出勤するサラリーマンや学校に向かう学生などの声が外から聞こえる。

 俺?勿論、家で!自分の部屋で!ビバ!ニート生活!新学期何かしらねぇ!


 去年漫画家としてのデビューが決まった、それでよかったんだが、高校には入っとけ。

 と、担当編集に言われ、AO入試で高校に入学する事ができた。


 入学したとは言え1度も登校した事はない。

 漫画家として、収入もある。親に文句は言わせない。


 だが、この時期まで1度も登校していないとなるとさすがに高校の教師も黙ってはいない。


【ブゥゥッ】


 スムーズにPCで文章原作を作成している時に、息を詰まらせるように机のスマホが鳴り響く。

 俺の高校の担任の先生からだ。


 会った事は1度もない、電話での会話のみ。


 正直に言って出たくはない、しかし1度電話かかって来たら何度もコールされる。教師って職業はそこまで暇なのか…?

 そして、出ないと判断されたら、親に連絡が行くのだ。

 それもそれでめんどくさいと判断し俺はスマホを手に取り、通話を開始する。


『おっ、今日は素直に電話に出てくれたな南雲!』


 さほど1発で俺が電話に出たのが嬉しいのか、電話の向こう側の声は張っていた。


 それとは対照的に俺は、仕事を邪魔された、そしてめんどくさい教師の話のダブルパンチで気分はブルーだ。

 どのくらいブルーかって?そうだな、この気持ちで中庭にブルーベリー畑が作れそうなくらいブルーだ。


「え、まぁ、起きてたし、1度で出ないとうるさいし、親に迷惑かけるんで…」


『親に迷惑をかけると言うのなら学校に来い』


 やっぱりその一言ですよね〜。


「いやぁ、自分で金稼いでますし、親には迷惑かけてませんから。それに、行くのはいいですけど、帰り道がわからないんで先生が一緒に帰ってくれるって言うなら考えます」


 ふっ、我ながら完璧な言い分だと思う。

 自分で金稼いで学費も何も自分でやってる、さらに、忙しい教師が生徒1人の家まで送り届けないといけない。


 と言う、南雲くん渾身のダブルパンチは!

 これなら口うるさい担任も黙るしかなかろう。

 完全論破だ…!


(我の勝利…っ!)


『そうかーお前方向音痴だったなぁ…そうかそうか、帰り道を案内してくれる奴がいればいいんだな?わかった』


「はい…そう言うことなので、僕は学校には…」


『あぁ、確かに先生はお前を家まで送り届ける事はできないなーって事で代役を用意する、しばし待て、それじゃあなー』


「へ?代役…?え、ちょっ待ってくださ…!」


【ツー…ツー…】


 スマホの向こうから聞こえてくるのは、通話が終了した音声のみ。

 それ以降、あの張りのある声が聞こえてくることはなかった。


 ま、何があろうと俺はこの家から出ないぞ…!


 そう、俺の意思は固い、それに毎日俺の登校に付き合ってくれる人なんか居ないし、知り合いもいない。


 つまりぼっち!!


 ふっ、表情はドヤ顔だが内心は涙目である。


「へっ!リア充なんか都市伝説だ…!」


 そう、リアルなんかクソくらい、ネットが全て、今の世の中を象徴しているのはリアルではなくネット!


 そう自分に言い聞かせながら、PCのSNSを開くそして眺める。

 担任との電話で文章原作は書く気が失せた。

 しばらくネットにこもる。これに限る。


 右手にコーラ、左手にスマホ、目の前にはPCでのSNSのタイムライン鑑賞。


「え?昨日童貞卒業した?まだ童貞の奴おるん??だって…?」


 こいつ、確か16歳だったよな?こいつもSNSと言うツールを使いながらリアルとの共同戦線を結んでいると言うのかっ…!


 リアルの女を食い散らかす野獣…。

 リア充ならぬリア獣だな…。


「はぁ…」


 現実とは別の世界ネット、そこに生きているとは言え、それは所詮自分に嘘をついているだけ。

 そんな事俺は知っている。


 だが、いいじゃないかちょっとした現実逃避だ。


 特に何も変わらない日常。

 何もせずに気づけば時間だけが過ぎて行く。


 気づけばスマホの時計は19時だった。


「もう19時かよ…てか昼飯食べてない…」


 ※昼飯コーラ1杯


 人って単純だよな、時は19時だと言うのに、腹は減ってない、だが19時とわかった途端体が食べ物を求めてくる。


「母さーん!飯ー!!」


 匍匐前進をして、二階の自分の部屋のドアから一階のリビングに向け母さんに声をかける。


 母さんは俺の顔と声を確認して、右手1つでグッ!とまるで『任せろ!』と言うように合図を送る。


 毎回思う、変な母親だ。


 極力部屋からは出たくない、しばらくして、俺の部屋の床がコンコンと音がする。

 これが飯の合図だ。


 所詮は数段の階段の差なのに母親も俺を部屋にまで呼びに来ない。


 理由は簡単、極力動きたくないのだろう。


 子は親に似ると言う、まさに似ている。

 ふむ、否定しない。

 だって似てるもの。


 ゆっくりと部屋を出て一階の部屋に向かう。

 並べられていた夕食に端を伸ばし、口に運ぶ。

 いたっていつもの夕食。

 普通に生活していれば変わる事なんてあまりないだろう?


「そう言えばお隣引っ越してきたらしいよ?」


 TVの子供向けアニメをぼけーっと見ながら食事をしていたら。

 ぼけーっとした口調で母親がちょっとしたお隣様情報を俺に伝えてきた。


「へぇ、ずっと空き家だったのに引っ越してきたんだ」


「ご近所さん情報だと美人さんらしいよ〜!」


 正直そんな情報はどうでもいい、が、ご近所ネットワークとはすごいものだな。

 隣に引っ越してきたと言うのに、俺はいつ引っ越してきたのか知らなかったし、それなのにご近所さんは知っているのか、しかも越してきた人の情報まで握っているとは。

 おそるべしご近所ネットワーク…。


【ピンポーン】


「…っっっ!!」


 俺の食事中に家のチャイムが鳴った、それはどうでもいい、だが今見ているアニメのシーンが良いところだと言うのに、チャイムの音で何言ってたわからなかったじゃないか…っ!!

 子供向けアニメのシーンに熱くなりながらも、そんな俺は置いて生き、母親は来客を出迎えに行った。


「はーい、今出まーす!」


 こう言う時は自分の能力である、妄想力に頼るしかない…っ!


 そう、ドジな主人公がヒロインの入浴シーンを覗くシーン、そしてそれがバレてビンタの1発でももらう…!


 そう『きゃー◯◯さんのエッチー!』と言いながらほっぺたに1発ぶたれるのだ…!


(俺が覗いてるわけでもないのに、何考えてるんだ…馬鹿らしい…!)


「あらーそうなの!?学生なのに偉いわね〜うちの息子とは大違い!!」


 食事を食べ終え、キッチンへと食器を運ぶ、その時に聞こえた母親の声、来客と話をしているのだろう。


 キッチンへと食器を運び終えて自分の部屋に戻る、そこで玄関で立ち話をしていた、母親と来客の姿が見えた。


 母親も俺の存在に気づく。

 引きこもりだからって影がうすいわけではない。


「あ、こいつうちの息子!南雲って言うんだ!」


 通りかかったからか、俺が勝手に紹介される。

 俺は、玄関扉の付近で立っている来客の顔を確認する。

 女性だった、身長は小さく小柄な体型、綺麗な長い黒髪にすれ違ったら男なら誰もが振り向くだろう。

 そのくらいの美人。

 そして、制服?を着ている、高校生かな?


「あっ、昨日隣に越して着た『北野』です」


 そう言って、彼女は俺に可愛い頭をぺこっと下げる。

 ん?北野?どっかで聞いたことあるな…。


「ども…」


 俺も軽く頭を下げる。

 さっき母親が俺の名前を勝手に暴露したから、自分から名乗るタイミングを失ったじゃないか…。

 こう言う時はなんて挨拶して良いか困る。

《ザ、コミュ障!》


 いや、コミュ障ではない…ちゃんと話せてる…うん。


 正直、美人すぎて、目を合わせたくない。

 そっと、二階の階段に登り、その場から逃げる。


 そして、自分の部屋に戻り、一息つく。


「…いやぁ美人だったなぁ…あ」


 思い出した…!!

 北野…!北野シンデレラ…!

 俺の相方じゃないかっ!!

 俺の漫画コミックスを手に取り北野シンデレラの名前を確認する。


「いやぁ…同じ北野でも偉い違いだよなぁ」


 まるで真逆…。

 もし俺のコンビの相方が北野でも北野シンデレラじゃなくて、彼女だったらどんなに幸せだっただろうか…。


 そんなよくわからない妄想を掻き立てて、文章原作を書き始める。


【ブゥゥッ…!】


「…っ!」


 本日2回目の邪魔が入った…っ!

 1日に電話が2回目かかってくるなんて、俺のスマホではなかなかない事。


 画面を見ると『ジョーク編集部』からだった。

 そして、思い出す。

 今日はアンケート結果の日だ。


 アンケート、漫画人気を決める手段だ、週刊で連載されている漫画は週に1度読者からアンケートを取る、そしてその中からランキング付けされている。

 そのランキングにより3ヶ月に1回連載会議が行われ、そのランキングに基づき、連載が終わる作品、連載が始まる作品が決まる。


 ま、人気を決める手段って事だ。


「はい、もしもし東雲ですけど」


 前回のランキングは7位、全20作品中7位は連載1年目にしては良い方、担当曰く15位以下が打ち切り範囲内らしい。


 まだ俺は二桁を取ったことがない事、余裕だ!


『あぁ、東雲くんか、今日アンケートの結果が出たぞ』


 やはりそうか、今日は何位だ?アニメ化している作品が上位に来るのは間違い。

 俺の作品は良くて5位悪くて9位ってとこだ。


「あ、はい。何位でした?」


 電話の向こうの空気が重く感じた。

 何か、言いずらそうな雰囲気。


『…14位だ』


「………へ?」


 14位…?信じられない、二桁なんて初めてだ、それより、打ち切りラインぎりぎりじゃないかっ!


『来月連載会議があるのは知ってるな?来週順位が落ちるなんて事があったら、やばいぞ?』


「い、いや!なんでそんな!?今まで二桁の順位なんて取った事なかったじゃないですか!?」


 動揺を隠せなかった、今までうまくいきすぎてたのか…!?なぜ、今回の話が特別つまらなかったとは思えない。


『君の作品は今回も悪くはなかった、だが周りの作品が良すぎた。悪くはないが良くもないと言う事だろう?』


「…そんなっ!」


『とにかく!順位を上げる!このままいくと打ち切りコースだぞ!』


 そう言って、プツッと電話が切れる。

 なんとも無責任じゃありませんか!?

 ちょっとアドバイスぐらい与えてくれませんかね!?


 まてよ、このままだと打ち切りコース。

 そして、このままだと学校も留年…。


「これってつまり、崖っぷち!?」


 一瞬でわかった、この俺にとってとてつもない危機だと言う事が…。


「はははは……」


 人って本当に絶望した時、無になれるんだな。

 無になりたい時は絶望しよう…。


 眠気は全くなく、話を考えなくちゃいけないのに、考えつかない。

 PCを目の前に体を倒れさせる。


 気づけば時間は7時だった。


「は?もう7時…?」


 実感がねぇ…。

 食欲もない、気持ちは落ちるのみ。


【ピンポーン】


 家のチャイム…母親が出るだろう。


【ピンポーン】


「……」


 あれ?出ない…?出かけてるのかな…?

 足で部屋の床をドンドンと叩き伝える。


【ピンポーン】


 理解した、親は今家にいない。

 家に鳴り響くチャイム音。

 まるでお前が家に居るのはわかってる、さっさと出てこいと言ってるように聞こえた。



「はぁ…出るか…」


 いつもより足は重い、精神的に色々あったし寝てもないから体自体もだるいんだろう。


【ピンポーン】


「はいはい、今出ますよぉ…」


【ガチャ…】


 家の扉を開け、来客を確認する。

 そこに居たのは、昨日越してきたと言う隣人の美人の彼女の姿が見えた。


 自然と目が合う。


「え、えーっと」


 思わず目を下にそらしてしまったっ!!


 そして、彼女はそらした俺の下向きになった顔を上目使いで覗き込んだ。


「あ、やっぱり居た!南雲さん!学校に行きましょう!!」


「……へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る