異世界転生相談《”Demonic Consultation”》
十条クイナ
始まり
第0話 Prólogo
「やぁっとクソ退屈な学校が終わったよ。
あのハゲ・・・、板書多いは話長いはで本ッ当とサイアク。」
「ねえ、マミカ。今日部活はどうしたの。」
「そんなのサボるに決まってんじゃん。
今日はもうアイツのせいで疲れちゃったからね。さっさとウチ帰って休みたいわ。」
「もう、そうやってしょっちゅう部活休むんだから・・・。」
黄昏の時。
2人の少女が並んで歩いていた。
何の変哲も無い有り触れた日常の光景。
「はあ・・・、私もこんな退屈な日常から抜け出して、ドコぞのラノベ主人公みたいに異世界に行きたいなあ。」
「えー、何それ?」
「だってそうすれば、毎日が楽しくなりそうじゃん。
何かテキトーなチート設定
「あはは、ソレすっごい楽しそう。だったら私は、異世界一の炎使いとかになってみたいな。
”私に触ると火傷するよ”、なーんてセリフ、言ってみたり。」
いたって普通の他愛も無い会話。
年頃の少年少女ならば一度は胸に抱いたことのある、もしも俺にあんなことが出来たら、もしも私にこんな能力があれば・・・、といった可愛らしく、そして少し恥ずかしい想像。
或いは、漫画や小説の中の世界に憧れて、己の身をその中へと投影し、生み出した自身の物語の想像。
世の中の至る所で見られる平穏な日々のワンシーンの1つ。そうして今日もまた少女の一日は何事も無く過ぎて行き、明日再び新しい日常を迎える。
はずだった。
「ねえ、お嬢さん方。少し良いかな?」
不意に少女達の背後からそんな声を掛けられた。その声に反応した彼女らが振り返ると、そこに柔和な笑みを浮かべた1人の男が立っていた。
黒髪で、スラリと高い上背。
その身長故か、ビジネススーツとネクタイが良く映える。
そして極め付けと言わんばかりに、彼はかなりのイケメンだった。
思わず2人はドキリとする。
「ええと、何でしょうか?」
「君達が楽しそうに異世界転生について語り合っていたからね。
おっと失礼、僕はこういう者なんだ。」
そう言うと、彼は名刺を取り出して2人に渡し、自己紹介を始めた。
※
「と言う訳で、今度新しく執筆するライトノベルの取材と宣伝を兼ねて、こういったモノを配っていたんだ。」
彼は新たに一枚の紙を取り出し、彼女らに手渡す。
『”あなたは死後、異世界転生をしたいですか?” ”はい。/ いいえ。”』
その紙面に大きく書かれていたのは、そんな質問と選択肢だった。そしてその下の方には、氏名を記載する欄が設けられていた。
質問は単純明快。異世界転生がしたいかどうか。異世界に行ってみたいかどうか。
だからこそ彼女らはソレの意図が理解出来ず、困ったような表情を浮かべ、互いに見つめ合った。
「あの・・・、コレは?」
そんな彼女らの困惑した顔を、男は興味深げに観察していた。そしてその顔に満足したのか彼は説明を始めた。
「そう、今まさに僕が君達にしたようなことを小説の冒頭の展開で書こうと思っていてね。それでこの紙を見せられた主人公は一体どんな反応をするのか、その反応を僕は取材したかったんだ。」
「なーんだ、そういうことだったんですね。」
「いやー、済まなかったね。でもなるべく素の反応が見たかったからさ。」
再び男は朗らかに笑った。そして、
「お詫びにその紙、あげるよ。
要らなかったら直ぐに捨ててしまっても良いし、或いは僕の取材に悪乗りして回答してもらっても良い。好きなように処分してくれ。
まあ出来れば、悪乗りしてもらった方が個人的には嬉しいかな。」
そう言って彼は2人の前から去って行った。
「ねえマミカ。コレどうする?」
「んー、そうねえ・・・、私はあの人の口車に乗って悪乗りしてみようかしら。」
「ホント、そういうの好きだよね。」
「えー良いじゃん別に。それにカナだって私に何だかんだ言っても、結局いつもノリノリになるじゃん。」
再び2人は帰路に着く。
日常の水面に、ほんの小さな小さな一石が投じられた。只それだけのこと。水面に生まれた僅かな波紋は直ぐに静まり、消えていく。
少女の机の奥か、本棚の隙間か、押入れの中か。
積み重なる日常の中に埋もれたあの紙片は、次第に少女達の忘却の彼方へと消えていった。
だが或いは、水面の生じた波紋が消えることなく反射し、投じられた小石の元へ還ってくることもあるのかもしれない。
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