新人シドナセドナ・イェル・ソドル

「皆さん初めまして。シドナセドナ・イェル・ソドルと申します。これからよろしくお願いいたします」


 緊張した様子も見せず流暢に日本語で挨拶するとインターン生はぺこりとお辞儀をした。きっちりと数秒頭を下げてから顔を上げてからフッと笑う仕草はキザな気もするが、彼の容姿がそういった感情をかき消してしまう。

 ウェーブがかった墨黒の髪。肌の色も墨がかったような不思議な黒色をしている。顔の造りは黒人よりも白人寄りの雰囲気で目つきが鋭いことを除けば優男風だ。しかし黒い肌と黒い髪にあいだにある大きな瞳の鋭さから優し気な第一印象を抱く者は少ないだろう。

 とはいえ周囲の同僚、特に女性陣が黄色い歓声を呑み込もうとしている様子から悪い印象を抱いている者は少なそうだ。

――まったく、イケメンは得だなぁ……外人さんなら尚更だ。

 丹湖門えみは独り呑気にそんなことを考えていた。自分が指導する相手が周囲から好感を持たれていることにひとまずは安心だ。

――でも実際、なんか雰囲気あるよねぇ、この人。

 不思議な黒色と精悍だが少しアンバランスな顔立ち。それは自分と同じ生き物というより絵画かなにかに描かれた存在のように想えてくる。そう、それはヒトはヒトでも空想とか言い伝えのなかで生きている者のようだ。

――宇宙人とか未来人とかじゃなく……もっと古い感じの。

 そんなことをえみが考えているとふと視線を感じた。視線をやるとシドナセドナ氏と眼が合う。


 じぃっ……


――えっ? なにこれ?

 思わず後ずさりしそうになったところで、課長がえみの名を呼んだ。


「シドナセドナさん、彼女がこの課で働く間、貴方の教育担当を務める丹湖門えみさんです」

「はい。よろしくお願いいたします、丹湖門さん」


 その言葉にハッとすると彼は手を差し出していた。握手であろう。えみはそれに応じるべく進み出る。

――なんかタイミングが早かったけど、課長が私の方を見てたから、だよね?

 その視線に違和感を覚えつつ、えみはシドナセドナと握手を交わした。すると、彼に触れた瞬間ピリっと静電気のような痺れが身体に走った。声を上げるほどではなかったが、彼を見るとなにかに驚き固まっていた。わずかに口元が動き、何か呟きかけていたが、母国語のようで読み取れなかった。


「あー、シドナセドナさんもなんかビリっとしました? 静電気的な?」

「セイ電気? Static electricity? ですか?」

「英語は分かんないけど、ドアノブやセーターでパチッとくるやつ、です」

「ああ、ならソレです。僕もパチッときました」


 二人揃ってあははと笑う。なんとも締まらないまま朝礼は終わりを迎えることとなった。

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