少し自分に素直になってみます After 咲人

「ナンパ師かなにかですかぁ⁉」


 ばしゃん


 風呂場に咲人の叫びがこだました。湯船につかるその身体は妙に赤い。

 

「なんですか! 思ったこと、そのまま口から漏れてるとか……!」


 ばしゃん


 歳をとると舌が回らなくなるものだ。恥ずかしい話だが、ごはんを食べると頬や顎に米が付くなんてことは咲人にも覚えがある。

 しかし、思ったことが垂れ流しというのは流石にマズイのではないだろうか。


「アンは可愛いなぁ~! じゃないですよ? ほんとに」


 ばしゃん ばしゃん


 ロッジの風呂は持ち主の趣向で薪窯タイプのものだ。

 蛇口を捻って出たお湯に浸かるのとは異なる温かみが大変趣深いのだが、いまはそれどころではない。


 ばしゃん ばしゃん ばしゃん


「このあと、どうするんです? 昨晩みたいに同衾? するんですか?」


 咲人の懸念はもっぱらこのあとのことだ。

 昨晩のように二つのベッドをくっつけて二人で寝る。咲人にはいまだにハードルが高い。おまけに今夜のアンは浮かれている。浮かれたアンがエヘヘエヘヘと幸せそうに笑う。咲人の枕もとで。

 前半は咲人が望んだものそのもので、後半については大変望ましくない。


 ばしゃん ばしゃん ばしゃん

 

 薪風呂の湯もお父さんの悩みをほぐしきれはしないようだ。

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