シノ「あれって、どゆこと?」
パニック映画、ホラ―映画などでヒロインないし第一被害者は肉感的な容姿であることが多い。それは煽情的な絵を見せることで心拍数を増大させ、のちのドキドキ感へとつなげるための布石である。
つまりそれはエンターテイメントにおける立派な手法であると言える。
一方、出来るセールスマンほど一見仕事と無関係に思える雑談を違和感なく話しだす者が多い。それは相手と自分の距離を縮めたり、相手の潜在的なニーズを引き出すための布石である。
つまり雑談としかカテゴライズできないトークも営業の立派な手法の一つであると言える。
だから、昼休みを多少超過して話題のソシャゲをプレイしていてもそれは取引先とのトークのネタ作りのためであり、決して自分はサボっていないのだと営業車のなかでシノ――
「まあ、実際、昼休み中に引くガチャほど引きが熱いからねぇ」
シノは現在、一日に三回出来るガチャの二回目を回している。
単純にハマりかけていることもあるが、前述した論法にのっとって是非ともレアものを引き当てたいのだ。
「Sレアこいよぉ……!」
シノはこの後に一件のアポを取っている。新規ながらそれなりに大口の契約が見込める相手だ。全てがそれなりに上手く運んでいた。しかし、あと一押しが足りない。シノはそう考える。それなりとはいえ大口の契約だ。追い風は少しでも欲しい。
先方の担当者もシノが現在プレイしてるソシャゲ『俺×異世界GS』をプレイしていた。初めはそれで盛り上がった。しかし彼はこのゲームの好事家だった。
つまり、デカい魚を釣って見せなければこの話題で彼のテンションを上げることは出来ない。
――担当はノッてもいいと思っている。けど、社内がまとまってない系だかんな。
シノと担当者だけの間ではこの契約は決めていいところまでいっている。しかし社内の腰が重いようだ。問題は担当者が社内を動かしてまでこの契約を決めたいと思えるか。ノッてくれるかだ。
――こい! こい……!
なにか一つでも、ほんの少しでも担当のビートを上げたい。
ノッてくれれば、シノは彼を味方につけてこの契約決められると見ている。
「……こいよ!」
スロットのように目まぐるしく切り替わる画面が止まった。
アイテムカードの中身があらわになる。
「かぁ~! コボルトかよぉ~‼」
結果はスカだった。
がっくりとうなだれるシノの手中でスマホが揺れた。
見るとメールが届いている。送り主の名は『デコ』と表示されていた。
シノは画面を切り替えてメールを確認する。
「おいおい、えみつん大丈夫か?」
メールは同僚で同期の朝比奈旭日からだ。同じく同期の丹湖門えみが早退したこと、最近彼女の様子がおかしいから何かしてあげたいと思っていること。ついては相談したいから直帰しないで帰社するようにとあり、最後に『経費精算をさっさと済ませろこの野郎』という一言が添えられていた。
シノは大きく息を吐いた。仲のいい同僚のことなので思う所はある。
「しかし、どぉしたもんかね……?」
ただ、そこから具体的な手段が浮かばない。
えみの問題はあと一押しでどうにか、という問題ではないのだ。
――ある意味、遺体が出ちまった方が楽になれるような状況だもんな。
えみと同じく片親という家庭環境のシノには彼女の置かれた状況はゾッとするものだった。そんなことを思っているとシノの視界に不思議なものが映った。
「……えみつん?」
それはここにいるはずのないえみの後ろ姿であった。
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