チャプター2.5

えみ「けけっ結果、オーライだよ⁉」

 朝のまどろみから丹湖門えみは浮上した。


「……おはよう」


 自分で自分に挨拶してむくりと起き上がる。

 習慣化した動作で朝食の準備と出勤の支度にとりかかり始める。

 ある程度意識がハッキリしてきたところで、スマホとパソコンのメールを確認。

――お父さんからはアレから特になし。大丈夫だったことよね?

 さらに眼を通していくと同僚の旭日からえみを心配するメールが来ていた。


「いけない。忘れてた。とりあえず、今日はちゃんと会社行けますって送るか」


 ささっと返信を済ませると、えみは朝食をとった。


「…………」


 父親が異世界へと旅立ってからニュースをしっかりと見た覚えがない。

 今日も今日とて天気予報以外の内容は頭に入らなかった。


「あっ……!」


 そこでハタと気づいた。


「昨日アンさんと仲直り出来てなかったら、お父さんはバカでかい木の上で野宿だったってこと⁉」


 それにもかかわらず、かなりの大口を叩いた覚えがある。そこは安全確保を第一にアドバイスするべきだったのではないだろうか。

 色々と感覚がマヒしてきたぞと彼女は頭を抱えた。


「けけっ結果、オーライだよ⁉ お父さ……」


 強がりを口にしても、それを穏やかに受け止めてくれる父は傍にいない。いてくれない。えみはテーブルに上半身を投げ出した。


「ホント、一度どこかでリセットしないとマズイかも……」


 このまましばらく動かずにいたい。具体的には一日以上。


「あー、でも旭日に行くって言っちゃったよ……!」


 えみは仕方なく身体を起こすと玄関へ向かった。


「サボッちゃ駄目だよね? お母さん……」


 玄関先の棚に一枚の写真が飾られている。そのなかで丹湖門由美が勝気に笑っていた。写真のなかの由美はいまのえみとそう変わらない年齢だったはずだ。


「うん。ほどほどで……行くよ」


 えみは頷き、出勤の支度を再開した。


「あー⁉ そうだ! お母さんも荷物と一緒に異世界行く? 後妻に会えるよ! 後妻にぃ‼」


 写真のなかで由美は勝気に笑っている。

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