エルフ×朝チュン×お父さん
異世界、少なくとも咲人が住む界隈には鳥が少ない。
特にスズメ大の小型の鳥類を目にすることは滅多にない。
魔法の存在する世界に適応した魔獣の存在が大きいのだろうか。
とはいえ、明け方ともなれば鳥の鳴き声が森に響く。
ちちち ちぃちぃ
――ドラマかなにかではこういうのを朝チュンと言うんだっけ?
まどろみから浮上しながら咲人はぼんやりと思った。
昨日はしっかりと眠れたか定かでなかったが、咲人は器用に片手で枕元のメガネケースからメガネを取り出し装着した。
――何もしていなくても、朝チュンなんでしょうか?
クリアになった視界に映るのは眠るエルフの少女。
アン――アンビエント・ゲイル・シャフトは身体を丸めて眠っていた。
ベッドに広がった
安心しきった表情で眠る彼女の姿は日頃よりいっそうあどけない印象を与える。
まるで朝という
けれど、アンは朝の祝福など必要としないだろう。
彼女にとって必要な宝物はその右手に握られているのだから。
咲人の左手が握りめられ胸に重ねられていた。
昨晩からずっとそうしていたのだろう。
――手が痺れているのはラッキーですね。もったいない気はしますが。
意識が覚醒するのに従って痺れは強く痛みを伴うようになってきた。
――ここは我慢ですよ、咲人。
咲人はアンの髪を撫でていた右手で左腕を握りしめた。動いてしまうのを堪えるために。
トク トクッ トクトク
痺れた左手をアンの心音がくすぐる。
――アンのまどろみを壊したくはない……なんてのはカッコつけだな。
咲人の想いを知ってか知らずかアンは僅かに身じろぎした。
「……っ‼」
――いったぁ~‼ ものすごいビリビリ、きたっ‼
なんとか声を殺した咲人だったがアンが追い打ちをかける。
「んぅ? サ……キ、ト?」
その声に自然と身体が応えてしまった。
ふにゅ
――何故動いたぁ⁉ 俺の左手ぇっ⁉
痺れた左手が握手するような動作でアンの胸を掴んだ。わりとしっかりと。
「うぅ……ん」
アンが瞳が開く。宝石の様なエメラルドグリーンの瞳に感情が宿る。
「んっ、おはようサキト」
「おはようございます、アン」
柔らかな声に穏やかな表情。
挨拶を返しながらも咲人は先程までことを忘れてその姿に見入ってしまう。
「ごめんね。手、痺れてるでしょう?」
「あっ、ああ、ハイ」
「伸ばしてあげる。ちょっと痛いけど楽になるから……」
「あっ、はい」
アンは軽く伸びをしてから咲人の腕をとってマッサージを始めた。
痛みが走るが確かに楽になっていくのを感じる。
――ああ、良かった……事故とはいえ、アレはよろしくない。
咲人は内心安堵していた。
アンは揉みほぐしを続け、咲人の腕を持ち上げる。
マッサージを続けるうちに彼女の顔が咲人の耳元へと迫り――
「サキトの【えっち】」
そう囁いた。
「えっ⁉」
咲人が驚愕しても、アンはにっこりと笑うだけだった。
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