アン「だってジンジンするから」

 自分はなにをやっているのだろう。

 アンは低木の枝に腰かけ空を見上げていた。

 なにをするともなく、どこへ行くともなく、そうしていた。


「サキトのばか……」


 いや、馬鹿は自分だ。自分は咲人を一人置き去りにしてきたのだ。

 魔法を使えない彼はあそこから降りることは出来ないだろう。

 であれば、彼を迎えに行かなければならない。

 なのにどうしてもそれが出来ない。


「……なんかジンジンする」

 

 いつの間にか右手で左腕を撫でていた。

 咲人と飛んだとき、驚いた彼が掴んだ箇所だ。

 強い力で掴まれたわけではないし腫れている訳でもない。

 なのに、そこが熱い。


「ここも、痛い……」 


 心臓のあたりがズキズキと痛んだ。

 咲人に会いたかった。なのに、どうしていいのか分からない。


「どうして?」


 最近の自分はおかしい。

 最初は咲人といるだけで温かい気持ちでいっぱいだった。

 追い払われず、甘えさせてくれる。それだけで嬉しかったし、安心できた。

 なのに、それが上手くいかなくなった。

 もっと話したいと思うようになった。

 そうしたら、言葉足らずな自分が嫌になった。

 えみにアンと呼ばれて最初は嬉しかった。

 いまは咲人がそう呼ばないことにイラつく。

 おかしい。おかしい。こわい。

 このままだと、あの温かい気持ちがなくなってしまう。

 そんなことが頭をよぎった。


「……っ、やだぁ……!」


 背を丸め自分を抱きしめる。爪が二の腕に食い込んだ。

 眼を瞑り、ぶんぶんと首を振る。

 それでも、咲人に触れられた熱は消えなかった。

 アンにはそれが嬉しいことなのかどうかさえわからない。

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