これから ~丹湖門えみ~
「順調ってことだよね……」
えみはメールを閉じると伸びをした。そしてそのまま脱力する。
父が珍しく早めに話を切り上げた。その文末にはビールを飲んで寝るとあった。
「いままではソレどころじゃなかったもんねぇ」
まるですぐそばに父がいるような調子で彼女はひとりごちる。
父はあれでけっこうな酒好きだ。
もっとも付き合い以外で飲むのは気分の良いときだけと決めてるらしいが。
そんな父が自分とのメ―ルを切り上げて飲むと言っているのだから、よほど飲みたかったのだろう。
――ビール買っておくかな。
そう思い、えみはパソコンを操作する。ボタン一つで異世界から自宅まで物が届とは。自分が生きる時代は想像もしなかったほどにヘンテコだ。
――そういやお父さんからのSOSもパソコンに届いたね。
§ §
ある日突然SNSのアカウントにメッセージが届いた。
自分はえみという娘を持つ咲人という者だが、貴女は私の娘ではないか。スマホが壊れてしまって連絡がとれない。もしそうなら連絡が欲しいという内容だった。
普段個人情報を発信していないのにどうしてこんなものが、と思ったものの内容が深刻そうなので、とりあえず父へ電話をかけてみた。
繋がらなかった。
さあ、どうしたものかと考えていると新着のメッセージがきた。
『確信が持てないようなら何か質問をしてみて欲しい。それでこちらの身元を確認してください』
そのタイミングの良さにえみは返信をした。
自分の生年月日と飼っていたペットの名前はなにか。
返事はすぐに返ってきた。
§ §
そこから父の荒唐無稽な近況報告とその確認、各種手続きにえみは奔走した。
現在丹湖門咲人は行方不明として扱われている。
登山の最中に遭難したものと考えられているが、現在も遺体は発見されていない。状況が状況のためロッジを貸し出していた咲人の友人も聴取を受けた。
えみは彼にただただ頭を下げるばかりだった。
不思議なことにロッジは元々の場所にもちゃんと存在していた。
こちら側でえみが動いている間に咲人の方も奔走していたおかげで現在は安定したやり取りが出来ている。特にエルフの里で渡されたQRコードに似た魔法の文様の恩恵は計り知れない。
しかし、えみは考える。
――お父さんはコッチじゃ死んだ人、扱いだよね……もう。
父のこれからはこの世界に存在しているのだろうか?
そして父を遠くへ連れ去られた自分のこれからはどうなるのだろうか。
答えは見えなかった。
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