至福:缶ビールがね、キンキンに冷えているのですよ!!
「お疲れ様です~‼」
「え……あ、うん。オツカレ、さま?」
近隣の村への訪問を終えた日の夜。夕食が終わりを迎えようとした頃合い。
丹湖門咲人は冷蔵庫から缶ビールを持ち出した。
咲人と共に異世界へとやってきたロッジの各種インフラはどういうわけか稼働している。
――そんなことはいい。大事なことは缶ビールがキンキンに冷えていることだ。
大切なことはいつでもシンプルで、手の届く範囲にあるのだと咲人は思う。
「さぁ、アンビエントさんもビールを!」
「ビール?」
手渡された冷たい金属の筒をアンは怪訝そうに眺める。
「お酒ですよ、お酒。【エール】で伝わりますか?」
「うん、エールわかるよ。泡立って苦いやつ」
「はい、それですよ! ああ、ここ【プルタブ】をカシュっとするんですよ?」
アンは咲人の動作を見よう見真似でプルタブを引く。
炭酸が抜ける音と共に香りが鼻をくすぐる。
「はい、それではお疲れ様~!」
「お、オツカレサマー?」
辛抱堪らんといった調子で咲人はプルタブを引き、アンの持つ銀筒にぶつける。
困惑するアンをよそにモコモコと泡を立てる飲み口へかぶりつくように彼は口をつけた。
ごくり、ごくり。ごくり……!
しなやかな痩身にあって男らしい盛り上がり――喉仏を上下させながら咲人はビールを飲む。その動作に釣られるようにアンはビールに口をつけた。
アンは正直エールは好きでない。苦いし、青臭いのも嫌いだ。
しかし、ここでアンが飲まずにいれば彼は飲むのを我慢するだろう。
彼は優しく、それでいて頑固だ。こんなに楽しそうな彼の邪魔になりたくない。
そう思って、なかば無理に缶ビールを嚥下したアンだが――
「!!!」
美味しい――そのエールはキリリと冷えて香り高く、嫌な雑味や青臭さとは無縁であった。
「ぷはぁッ‼」
「…………」
潜水でもしていたかのように大きく息を吐く咲人。
目を見開き缶ビールの眺めるアン。
ふたりはまたビールをあおる。
ごくり、ごくり。
「はあぁ……!」
「……美味しい!」
咲人は満足げに、アンは驚愕しながら感嘆を漏らした。
「「…………」」
「はははっ!」
「アハハッ♪」
若者と老人、人間とエルフ、男と女。垣根を越えて何かを分かち合い。
ギョドンの塩焼きを肴にその後ふたりは――大いに飲酒した。
§ §
「なにこれ? エールの苦いのでギョドンの脂と塩味が……なんかいい‼」
「イケますねぇ♪ アンさん」
「凄い、サキト……わたし、こんなの初めてだよぉ~!」
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