011【4】

「ジャックさん!!」


「ヘッヘッ毒を抜くのに時間がかかちまった!」


ジャックは波動弾を受けきり、白弾は自然消滅する。


「それともう一人、動けないやつをおぶってたら出てくるタイミングを逃しちまった。なぁグレイさんよぉ?」


短剣を握るジャックの右脇には、グレイがぐったりとした姿で挟まっていた。


「フッ……さっきまで休んでいたやつが……よく言うぜ」


「グレイ!無事だったんだ!!」


キョウスケがグレイに寄り添うと、グレイは右の後ろ足に大きな傷を負っていた。


「直撃は免れたみたいだけど、どうやら右足をやられちまったらしい。そこから毒が回ってたんでオイラが毒抜きしてやったんだが、今はまともに歩くこともできない」


「でも良かった……グレイが生きててくれて」


「フン……あんなやつにやられたら……まともに成仏もできないだろうさ……」


グレイは強気に言ってみせるが、やはり怪我が酷いせいか弱っていた。

それでも、グレイの命は助かった。それだけでキョウスケは安堵できたのだ。


「ンンンン何故だ……何故殺したはずのケルベロスが生きてやがるんだああああっ!!」


アスタロトは自分の目を疑う。

今さっき、自らの全力を持って打ち倒したはずのケルベロスがまだ生き残っている。

その出来事へのショックと怒りの感情が、声に出して溢れたのだ。


「ジャックさん、実は僕一つ作戦があるんですけど、ジャックさんの短剣であの岩を切れます?」


アスタロトが騒いでいる中、キョウスケはジャックに問いかける。


「岩?岩ってまさかあれのことかい!?」


ジャックとキョウスケの目線の先にあるのは、異界の門の六芒星が刻まれた大岩だった。


「うぅん……まっぷたつは無理だけど少しずつ砕くんなら兜割りでできるかも……」


「よし……じゃあまず……」


キョウスケはジャックに端的に作戦を説明する。

その作戦を聞いたジャックは眉をひそめた。


「うまくいくかねぇそんなこと?」


「でもあのドラゴンの攻撃を封じるにはそれしかないと思うんだっ!」


「……ヘッヘッまぁそうだな。考えたって仕方ねぇ、ここまできたらやるしかねぇか!」


すると突然、キョウスケのポケットが黄色く光り始める。その光は、グレイの魔技を唱える時に出てくる光によく似ていた。


「こ……こいつぁもしかして!」


「あぁ……ジャックの魔技が解放された……キョウスケ魔札を」


キョウスケはカボチャの刻印が入った魔札を取り出す。キョウスケが魔札を握ると、黄色い光は増幅し、頭の中に魔技の呪文が浮かんでくる。


「ヘッヘッ!早速どんな技か実践投入だキョウスケ!」


ジャックはそう言うと、アスタロトのいる方へ走り出す。


「死に損ないどもめが!全員まとめてぶっ殺してやるぜええええ!!ヒャーハッハッハァァァァ!!!」


アスタロトは目を血走らせ、ドラゴンの腕を使って迎え撃つ。


「ジャックさん行くよ!!」


キョウスケは魔札を握りしめ、自分の魔力を注ぐ。


「パンプアップ・パンプキン!」


キョウスケが唱えると、ジャックの体はみるみるとパワーアップしていき、パワー、走力、その他諸々と上がっていくのが見てとれた。


「スゲェ!これがオイラの秘められた力か!!」


ジャックは走る。

通常でも足の速いジャックだが、更にその倍以上のスピードで大地を走り抜ける。


「ギィイイイ……このネズミめがぁ!」


アスタロトはドラゴンの腕を出し、唱える。


「ポイズンブレス!!」


ドラゴンは、先程よりかは小規模な毒の炎を吐き出す。しかしその威力は、規模が小さいとて強力。

炎を浴びた大地はその温度で溶け出し、更に毒によって汚染された。


「ヘッヘーン!そんなもん食らうかよ!!」


ジャックは飛び上がり、ドラゴンの炎を飛び越える。その跳躍力は五メートル程に達し、地面に着地すると再び走り出した。


「チキショオオオオオオオ!小癪なクソカボチャがあああああっっ!!!」


アスタロトは吠え、ドラゴンの腕をジャックの方へ向ける。

そして再びドラゴンは咆哮し、大地が揺れ始めた。


「ケッケッケッケッケッケッ!こうなったら全部吹っ飛ばしてやる……残りカスも残らねぇくらいになぁっっ!!!」


キョウスケは一度目にしているから分かる。これはドラゴンがデス・ベノム・インパクトを放つための予兆だと。


「ジャックさん!急いで!!」


「うおおおおおおおおおお!!!」


ジャックは走り、六芒星の刻まれている大岩にたどり着くと、それを飛び登っていく。

その間もドラゴンによる地鳴りが続き、大地のエネルギーは吸収され、蓄えられる。


「ギャーハッハッハッ!!死ねえええええええええええええええ!!!」


アスタロトが、ドラゴンの準備が整いかけているのを認識したその時。


「兜割りだあああああああああ!!」


ジャックは両手に短剣を持ち、短剣に魔力を宿らせ、そのまま大岩に振り下ろした。

直後、大岩はヒビ割れ、崩れ落ちる。

砕けて一つ一つの岩石に分離したものが目指す先には、アスタロトが立っていた。

アスタロトは岩石から逃げようとするが、体長二メートル程あるドラゴンの頭は早々動くはずもなく、ならば返り討ちにしようとしても、すんでの所でデス・ベノム・インパクトの準備は出来ていない。

完全に詰み。王手は取られた。


「何故だなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだああああああああああああ!!!!!!!」


その時、アスタロトはふと気づく。 あの人間、キョウスケがジャックに何かを伝えていたことを。


「……そうかあの人間、気づいてやがったのか。我が上手く身動きをとれないことを」


キョウスケはずっと見ていた。アスタロトは腕にドラゴンを召喚してから一度もその場を動いていなかったこと、そしてキョウスケにとどめを刺そうとした時、直接とどめを刺しに来ず、わざわざ放り投げていた蛇矛を拾って波動弾を使ったことを。

全ては読まれていた、あの少年に。


「……デビルサモナー、恐るべき人間だ」


最後にアスタロトは自我を取り戻し、呟く。

そして悪魔は、ドラゴンと共に岩石の中へと封じ込められた。

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