012【1】
「……死んだのかな」
まだ砂煙が舞っている岩石の溜まり場を、キョウスケはグレイを背負って見ていた。
まるで自分がこんなことを思いついたとは思えないような惨状。
指示した本人も、呆気にとられていた。
「フッ……アスタロト程の悪魔になるとこんなもんじゃ死なないさ。ただ、しばらくは身動きとれないくらいのダメージは負ってるだろうよ」
「そっか……ちょっとやり過ぎたような気はしたけど」
「これくらいしないと俺達が殺されてた……俺はそう思うぜ」
「……そうだね」
やらなければ、やられていた。それほど生きるか死ぬかのギリギリの駆け引きをやっていたと思うと、キョウスケは今ここに居ることが奇跡のように感じた。
「ヘッヘッ……はぁ、死ぬかと思ったよ……」
岩場の影から、溜息混じりのいつもの笑い声が聞こえてくる。
「ジャックさんお疲れ様!ジャックさんがいなかったらこの戦い勝ててなかったよ」
「ヘッヘッヘッそうかい?いわゆるMVPってやつかなオイラ!」
ジャックは頭をさすって、照れ笑いをする。
「あぁ……間違いなくアンタのお陰だジャック。ありがとう」
「おっグレイがオイラを褒めた!これ雨降るんじゃねぇの?」
「……褒めて損した」
「ウソウソ!ありがとよグレイ!」
キョウスケに負ぶさるグレイの頭を、ポンポンと軽く触れるジャック。
グレイはその後、ブルブルブルと素早く首を横に振った。
「でもこれからどうすればいいんだろう……異界の門はこんなことになっちゃったし……」
アスタロトを倒すために崩した大岩には六芒星が記されており、それこそが異界の門の一部であった。
しかし今はこうして瓦礫と成り果て、とてもじゃないが修復できるような状態ではなかった。
「キョウスケ、悪魔の像が残ってるかちょっと探してみてくれないか?」
「悪魔の像?うん分かった」
キョウスケはグレイを負ぶったまま、岩石の山から離れ、元々大岩のあった場所へと移動する。
「おっ、もしかしてあれ全部悪魔像じゃねぇか?」
ジャックが見つけたのは、岩石が転がった衝撃で倒れた四体の悪魔像だった。
グレイはキョウスケの背中から降り、右後ろ足を庇いながら歩いて調べる。
悪魔像は倒れてはいたものの、欠けている部分もなく、奇跡的に無傷のまま残っていた。
「うん……これならいけるかもしれん。ジャック、悪いがその倒れている悪魔像を立ててくれないか?」
「えっこの銅像達をかい!?……戦いの功労者にこの労働を一人でさせるってのはちょっと酷なんじゃねぇの?」
「何が功労者だ……ただ起こすだけだ、難しいことじゃないだろ?」
「へいへい仰せのままにっと……」
ジャックはしぶしぶグレイの言うことを聞く。
何故ジャックがここまで渋るのかというと、目の前に倒れている悪魔像の大きさはおよそ1.8メートルはある巨像であり、一体起こすのにも苦労しそうなものを、四体起こすともなると、考えただけで途方に暮れるような作業だったからであった。
「おっとそうだ!その前にキョウスケ、ジャックの魔技を唱えてやってくれ」
「えっ……あっなるほどね!」
一瞬戸惑ったが、グレイの言いたいことにキョウスケは勘づく。
ジャックの魔技は、身体能力を全体的に上昇させる魔技だ。あの大岩を破壊しただけのパワーを出すことが出来るのならば、この銅像を起こすくらい朝飯前である。
「ゲッ!?言っとくけどオイラの力は雑用をするためにあるもんじゃねぇんだぞぉ!」
「使えるものは使った方が利口だろ?それとも素の状態で持ち上げるか?」
「チキショウ!ここにも暴君がいやがらぁ!!」
「ジャックさんお願いします……僕も少し手伝うから」
「ンギギ……べらぼうめっ!煮るなり焼くなり好きにしやがれ!!」
グレイには抵抗したものの、今や主人であるキョウスケに頭を下げられては観念せざるを得ないジャック。
「ありがとうジャックさん!じゃあパンプアップ・パンプキン!」
キョウスケはジャックの魔札を握り、唱える。するとジャックの身体能力は瞬く間に上がった……のだが。
「ありゃ?心なしかさっきよりパワーアップしてない気がするんだが……ちょっと待ってくれよ」
ジャックは先程、アスタロトと戦った時に発揮した能力とは違和感がある気がし、試しに悪魔像を持ち上げてみる。
すると悪魔像は見事に立ち上がったのだが、やはりジャックの中では妙なしこりが残った。
「しっかりパワーアップ出来てるよジャックさん!」
「うんそうなんだけど……そうなんだけど違うんだよなぁ~……」
側から見ると何が違うのか分からないが、ジャックには感じた。あの時のパワーアップと今のパワーアップは明らかに違うものだと。
「……もしかするとキョウスケの込める魔力の量によってパワーアップの度合いが上下するんじゃないか?俺の魔技もそうだし」
そんなジャックを見て、グレイは一つの答えに辿り着く。
「そうだ!それだよグレイ、魔力だ!!」
ジャックは導き出された答えを聞き、スッキリした表情をする。
魔技とは、デビルサモナーによって引き出されるものであり、その魔力はデビルサモナーに依存する。つまり、デビルサモナーが引き出す魔力の量によって魔技の力も増減するという、一種の等価交換が成されていたのだ。
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