001【2】

抵抗する意味が無いと踏んだキョウスケは、ついに腹をくくる。

どんな言葉で返そうが、ミレイの一喝でキョウスケは追い詰められてしまう。だったらもうここは自ら背水の陣を敷き、自分を無理矢理鼓舞するほか無かったのだ。


「モチロン!じゃあ決定ね!!放課後が楽しみぃ♪」


「はぁ……」


鼻歌を歌って陽気なミレイと、深い溜息をこれでもかと吐くキョウスケ。

そんな真反対の心境の二人だったが、共に一歩踏み出し横断歩道を渡る。

それから放課後まで二人の気分は変わらず、一人は快晴、一人は土砂降りの雨のままだった。

交差点の信号が赤になる。

朝は出勤時間ともあって、車も人も多い交差点だ。中にはミレイとキョウスケと同じ、ダイミョウ小学校の児童もいた。


「……ねえねえキョウスケ、アンタ屋上の噂知ってる?」


「屋上?いや……知らないかなぁ」


「あのね……」


ミレイはキョウスケとの間を、より詰め寄る。


「屋上……出るらしいんだよ」


「出る?何が?」


「もう!ほんっとぶっきらぼうね!!出るって言われたらあれしかないでしょ!」


間を詰め寄る意味を無くす程の大声をあげるミレイ。しかしそれでもキョウスケの頭の上には「?」が浮かんでいた。


「幽霊よ!ゆ・う・れ・い!!」


「ゆ……幽霊!?」


話の根幹を理解し、キョウスケは初めてここで驚愕する。

彼は近所の祭りなんかである、小規模のおばけ屋敷すら怖がるほど、幽霊が苦手なのだ。


「うっふっふっ……そうよ。二組の子が言ってたんだけどね。放課後に帰る途中、階段を降りてたら屋上の方からガタガタって物音がしたんだって。それから三日間毎日放課後になると物音がするって」


「まさかぁ……風の音なんじゃないの?」


キョウスケはミレイの言葉を疑う。というより、疑いたかった。

自分の通っていること学校に幽霊がいるなど信じたくなかったのだ。

それに、屋上は危険だということで普段の立ち入りは禁止されている。そんな場所に誰かいるはずもない。

人のせいでないことは確かだった。


「あのねぇ……屋上の扉が風で物音たてるってなったら台風くらいの風じゃないとしないわよ?台風なんて最近来た?」


「……来てない」


ここ数日はずっと晴れが続き、風もほぼ無風。

そんな状態で扉から物音が出るだろうか、いや、出ない。


「でも最近になって音がするんだろう?なんで最近になってし始めたんだろう?」


キョウスケの疑問は至極正しい。

大抵は幽霊の噂というのは、その場所に昔からある、ある意味伝統的なものである。

しかしダイミョウ小学校にはそれまで、そのような噂が一度と立ったことは無かったのだ。


「そう!そこ!わたしもそれ気になってたのよ!!」


ミレイはキョウスケに噛み付かんが如く、食いついてくる。

それと同時に、キョウスケは一歩引いた。


「だからねあたし達で調べるのよ!今日の放課後」


「調べるって……つまり屋上に行くってこと!?」


「そういうこと」


「えぇっっっっ!!!!!!!」


キョウスケは驚きのあまり、周りのことなど考えずに大声をあげる。

周囲にいた人々はモチロン、キョウスケに注目したのだが、その刹那信号が青に変わったため、そちらに注意はそれた。


「ちょっと!!声大き過ぎよ!!!」


「ごめん……」


先程までは恥ずかしさよりも驚きが勝っていたキョウスケだったが、ミレイの指摘によって急に恥ずかしさが込み上げ、顔が真っ赤になる。


「で……でも僕嫌だなぁ……幽霊苦手だし」


「あのねぇ……そうだ!だったら幽霊と思わなければいいじゃない!」


「えっ?どういうこと?」


ミレイの言葉に、キョウスケは首を傾げる。


「だぁかぁらぁ!さっきキョウスケも言ってたじゃない風のせいじゃないかって。だから風のせいだと思って屋上に行くのよ!そしたら怖くなんかないでしょ?」


「そんなメチャクチャな……」


早い話が、ミレイはキョウスケに自己暗示をかけろと言っているのである。

しかしそんな簡単に自己暗示をかけれれば、人類には既に怖いものなど存在しなくなっているだろう。

それはそれで恐ろしい話だが。


「メチャクチャだろうが怖かろうが、行くったら行くのよ!それにアンタは今日遅刻したからあたしには逆らえないんだからねっ!!」


「そんなぁ……」


遅刻という巨大な枷が、キョウスケから逃げ場を失くす。

結局のところ、どんなに抵抗しようともミレイのこの一言でキョウスケは屋上へ行くことを逃れられなかったのだ。

これこそが宿命なのである。


「分かったよ……でも何もなかったらさっさと帰るからな」


抵抗する意味が無いと踏んだキョウスケは、ついに腹をくくる。

どんな言葉で返そうが、ミレイの一喝でキョウスケは追い詰められてしまう。だったらもうここは自ら背水の陣を敷き、自分を無理矢理鼓舞するほか無かったのだ。


「モチロン!じゃあ決定ね!!放課後が楽しみぃ♪」


「はぁ……」


鼻歌を歌って陽気なミレイと、深い溜息をこれでもかと吐くキョウスケ。

そんな真反対の心境の二人だったが、共に一歩踏み出し横断歩道を渡る。

それから放課後まで二人の気分は変わらず、一人は快晴、一人は土砂降りの雨のままだった。

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