003【1】

キョウスケとグレイは再び学校へと戻っていた。

何故なら学校の屋上には魔界へと向かうための門、異界の門があり、そこからでないと魔界へは行けなかったからだ。

キョウスケがいつも小学校へ向かう道を歩いていると、ミレイの家を横切ることになる。


「あれ?あれってミレイじゃないかな?」


キョウスケはミレイの家の前に誰かが立っているのを目にする。

そこにはランドセルは無いが、いつも待ち合わせをしている場所に立っているミレイの姿があった。


「やっぱりミレイだった!でもどうしたんだよこんなとこで立ってて?」


キョウスケはミレイの顔を眺めようとするが、ミレイは俯いていた。


「あのさ……やっぱり心配になっちゃって。あたしも魔界に着いて行ってもいいかな?」


「えっ!?魔界に!!!」


キョウスケはミレイの言葉に飛び上がりそうになる。あまりにも予想してなかった、驚きの言葉だった。


「お嬢ちゃん、着いて行くと言っても魔界はそんな甘いところじゃ無いぞ。もしかした死ぬことだってある。それを覚悟してそんなことを言ってるのか?」


グレイは強めの口調でミレイを制す。

魔界とは魔物がはびこる魑魅魍魎の世界。そこではいつ騙され、いつ殺されるかも分からないほど殺伐としているのだ。

それを知っているグレイだからこそ言うことのできる、ミレイを思ってこその言葉だった。


「うん……大丈夫。それにあたし、魔界に行って調べたいことがあるの」


「魔界で調べたいもの?」


意外な返答にグレイは少し驚く。

キョウスケのようにデビルサモナーでもない普通の少女が、いかような用件があって魔界を調べたいのか気になった。


「あたし、もっと小さい頃に交通事故にあってお父さんとお母さんが死んじゃったの……誰も助かりようも無いくらいな悲惨な事故だった」


ミレイは今、祖母と祖父の三人で暮らしている。その交通事故があったのはミレイがまだ五歳の頃だった。


「でも事故が起きた時、あたし何かを見たのよ!白い翼のようなものを……そして目を覚ましたら病院にいたの……」


「白い翼のようなもの……か」


グレイには何か心当たりがあるようだった。だが、確信がないため、それ以上の発言は控える。


「それ以来白い翼を見ることは無くなっちゃったけど、でも今でも心の端に引っかかってて……そしたらキョウスケが魔界に行くってことになっちゃったから。人間の世界では答えは見つからなかったけど、魔界なら見つかるかなって思ったの……」


ミレイは両手の拳をぎゅっと握る。

彼女は彼女なりに決心し、自らの理由をしっかりと持って魔界への旅に向かうのだ。

モチロン、これまでミレイの話を聞いていた二人にもその意思は伝わっていた。


「……どうするキョウスケ?俺はお前の指示に従うぞ」


「ちょ……ちょっとグレイ!なんで最後は僕に丸投げするのさ!引き止めたのはグレイなのに」


「俺はあくまで俺の意見を言っただけだ。最終決定はパーティのリーダーが下すものだろ?」


「そんなぁ……」


キョウスケは、はぁ……と大きな溜息をする。

キョウスケとグレイは既に主従関係にある。召喚する者とされる者。キョウスケが主人である以上、従者のグレイはそれに従うしかない。

だがグレイはキョウスケがどう選択するのか分かったうえで、キョウスケに選択を委ねたのだ。


「キョウスケ、モチロン連れて行ってくれるわよね?」


「ミレイ……顔は笑ってるけど目が笑ってないよ……」


まさに蛇に睨まれた蛙。

キョウスケはミレイのその眼光を見て怯える。このまま断るようなことをしたら、ミレイに何をされるか分かったものではない。良くて飛び蹴り、悪くて首絞め。

そんなことを考えて、キョウスケは固唾を呑んだ。


「分かったよ、じゃあミレイにも着いて来てもらおうかな。グレイいいよね?」


キョウスケはグレイの方に振り返ると、グレイはフッと笑う。


「お前がそう言うなら、それでいい。よろしく頼むミレイ」


「えぇ!こちらこそよろしく!!」


ミレイはニカっと笑う。

キョウスケにとって、ミレイが着いて来てくれるのは大きな安心感となる。

まったく知らない世界にグレイがいるとはいえ、飛び込むのはやはり勇気がいるものだ。そこに幼馴染のミレイが入ることによってキョウスケにとっては心の支えとなった。


「それじゃあ……えっと魔界にはどうやって行くの?」


ミレイは首を傾げて、キョウスケに尋ねる。


「学校の屋上に異界の門があるから、そこから行くらしいよ?」


「へぇ!!あんな何もないところにそんなのがあったんだ!……てか、学校の中に魔界の入り口があるって何かと問題ものよね」


「確かに……」


キョウスケは頭を抱える。

もし異界の門から魔物が溢れ出て来たら、それこそ学校中がパニックになるだろう。

そう考えると、大問題だった。


「フッ……まあ現に俺もあそこから出て来たからな。他の魔物が出て来て子供を襲わないとは限らないな」


グレイの言葉にゾッとするミレイとキョウスケ。


「心配するな、異界の門をくぐって人間世界へ向かうなど稀なものだ。元々あれは魔界を自在に行き来するための道具だからな。魔界と魔界を繋ぐ鍵はあっても、魔界と人間世界を直接結ぶ鍵は存在しない。まぁキョウスケが今持ってる鍵ならランダムで稀に人間世界に向かえるがな」


「そ、そっか……でもそうなると、僕たちはもうこの街には戻ってこれないかもしれないね」


「まぁ逆を言えばそうなるな」


魔界へ踏み込めば、人間世界には二度と戻れないかもしれない。

そう思うと、キョウスケは寂しさのようなものを感じた。


「ちょっとキョウスケ!な~にしんなりしちゃってるのよ。魔界に行くって決めたんでしょ?ベルゼブブを倒さないと戻るどころか、この世界が無くなるってグレイが言ってたじゃない!」


「……それもそうだね。ここに戻れないって考えたらちょっと怖くなっちゃってた。ありがとうミレイ」


「しっかりしなさいよね!もう……」


キョウスケ達に残された道はただ一つ、ベルゼブブを倒し、この世界をハルマゲドンから救い出すこと。戻っても破滅、逃げても破滅。

非常にシンプルな答えが用意されていた。

仲間は三人に増え、一行は再び学校へと歩を進める。もう夕方というよりかは、夜が近くなっていた。


「ねぇキョウスケ……そういやさ学校って夜になると閉まるわよね」


「まぁそりゃあ誰もいなくなるからね……あっ!!!」


「キョウスケ、ミレイ走るぞ!!」


三人は一気に走り出す。

ここまで来るのに様々なことがあったため、既に時間は18時を過ぎていた。

もはや、いつ学校の門が閉められてもおかしくないような時間になっていたのだ。

全速力で走るが、やはり群を抜いて速かったのはグレイだった。


「キョウスケ、先に俺が行って門が閉められそうになってたら止めておく!」


「うん、分かった!」

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