やぶにらみ

笛吹ヒサコ

はじめに

 わたしが『やぶにらみ』だと知ったのは、二十歳すぎてからだった。


 皆さんは、やぶにらみをご存知だろうか?

 『斜視しゃし』と言ったほうが、伝わりやすいかもしれない。

 目の病気というと、なんだかおかしな気分になるけど、両眼の視線があわなくなる病気らしい。

 斜視とひと言で言っても、わたしの外斜視の他に内斜視、上斜視、下斜視と細かく分類される上に、常に斜視という人もいたり、そうでない人もいたりするらしい。


 とりあえず、わたしの外斜視やぶにらみの『視界』は、カメラのピント調整が上手くいっていない状態だ。

 何かに焦点を合わせる前の、像が2つある感じ。

 焦点を合わせようとすると、とにかく目を寄せる筋力を使うことになる。


 やぶにらみの『視界』は、焦点をあわせることが非常に苦手らしい。


 しかし、どうやらわたしは、『視界』以外でも焦点がずれることがあるらしい。


 たとえば、時々視界の端に現れる『黒い人影』とか――。

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