Scene 11
大世界
小夜ちゃんたちと別れ、新青梅街道へ出た。
車の通行量に恵まれる『富士町三丁目』の十字路。さすがに新宿の靖国通りや渋谷のスクランブル交差点にはおよばないけれど、しかし、時間に追われる日常をよしとする生体たちのエナジーが輻輳を為している。ファミレス・ユニクロ・小さなダーツバーが慎ましく建っている以外、この界隈に目ぼしいお店はなく、なのにこの通行量──なるほど、彼らの繁忙に偽りなしといったところか。
それでも、信号が赤に変われば律儀に停止線を守るフロントライトたち。精到に教育されたベクトルを右に見ながら横断歩道をわたる。右折も左折もせず、東伏見駅からつづく『かえで通り』をさらに直進。100mほど進んだところにある『東伏見団地東』のバス停を通過し、通過して最初の電柱までたどり着いた。
ここで私は、
件の電柱、その周囲をぐるりと反時計まわりしてUターン、来た道を引きかえす。ふたたびバス停を通過して10mほど前進、左折のできる路地のまえへ。路地の出入口のあたりに一時停止の標識が立っている。この柱に左手でタッチ、ふたたびUターンしてさきほどの電柱まで戻る。すかさず、今度は時計まわりにUターン、バス停のまえへ。ここには3つの標識柱が並んでいる、そのうちのまんなかを右手でタッチ、またもUターン、電柱に向かって13歩だけ前進。それから、来た道をふりかえる。
すると──来た道がなくなっている。
代わりに、巨大なビル群が姿をあらわしている。
『
東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の4都県を足したほどの総面積を誇り、しかし、ゆとりのある空間や自然物の類はほとんどなく、雑居ビルやマンションなどの建物ばかりが隙間なく集まっている。幾層にも連なる地下施設も点在し、飽和状態ともいえる幽体の人口を鑑みればもはや「国」と呼ぶにふさわしい。確かに、この世の政府機関である幽体協同組合の総本部と関連施設、最高裁判所にあたる
私のお家も、このなかにある。
絶対に住まなくてはならないルールがあるわけではないが、実際に8割以上の幽体が大世界を生活拠点と定めているらしい。住まいと定め、遠慮なく往来し、ここからあの世へと出張り、しかし用事が済めばまた戻ってくる。この、物の幽体であふれかえる混沌の坩堝へと。
ちなみに、電柱を行ったり来たりするというおそろしく面倒な儀式を経て私の入ってきた場所を『
永遠の闇黒に支配される街、大世界。だって、この世には
歌舞伎町なんて、目じゃないんだ。
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