つぶれたかえる

青井鼠

第1話

もうすぐ中学生の娘と、先日誕生日を迎えた嫁が俺の買ったワンピースを着て襖からこんな俺を見つめていた。じとじとと、じめじめというどす黒くて厭らしい音が聞こえてきそうだった。

それできっとよかった。



目の前の四人掛けの優先席に太ったクソババアが二匹。【がたんごとん がたんごとん】そんなクソババアを通り越して宙を見つめながら私が考えているのは彼のことと、以外はただの空想。高校生の途中から訳あって一人暮らし。2LDK。一人で暮らすには無駄に一部屋多くて寂しげだが、いつだって話しかけられる水槽が一つ。寂しさなんてこんな簡単に紛れてしまう。紛れ込んでしまう。悲しそうな部屋に帰ってきて早々、口の中のトイレットペーパーをトイレに吐き出す。水に溶けるトイレットペーパーを口の中で飼育する企画を自分たった一人で遂行していたようだ。

そして電車の中だってどこだって大勢の人間という生物に埋もれて誰にも聞かれてなくても言ってやるんだ。「私が噛んでいるのは間違えなくガムです」と。真剣な顔つきで貴方を見つめて。


彼とした遊びを紹介します。


私の質素な家の台所。着物を着た太ったおじさんが大きな虎と大喧嘩している柄のどんぶり。綺麗な色のついたガラスのおしゃれな器、ワイングラスを用意してそれらに梅干しの種を投下。食べ終わった種の山。電気を消して、ろうそくをつけた。どっかの国の危ない儀式にも見える、見たこともないグロテスクキュート。口の中はすっぱいすっぱい大惨事。趣味はひらめき。私は彼を尊敬しているし彼も私を。とは言え、私達は至って普通のカップル。そしてセックス。女の、子は、セックスがしたいだなんて自分から口にしたものなら「女の子でしょ」とか言われがちなご時世だが、セックスがしたいだなんて素晴らしく普通の話だ。こんなに楽しいスポーツないでしょう。こんなにワクワクする遊びないでしょう。こんなに幸せな儀式、他にないでしょ?ていうか、あんた達はしないとでも言うのか。女の子は便も屁もしなければ交尾もしないだなんて、ちゃんちゃらおかしいわ。これは空想かしら。彼のことかしら。


彼は私の頭を包み込んだ。ふんわりいつもの柔軟剤の匂いがして目を瞑る。この世の全ての星の生物を全員集めて恋愛ごっこをしたって彼ほど好きな人は居ない。このぬくもりに包み込まれるたび、そう心の中で何度も再確認した。いや、そうじゃなくて彼以外はとても興味がない。つまらない。つまらない。なにがいいのか、どこがいいのか、一緒にいて何がプラスになるのか。プラス。プラス。プラス。そうよ。そうだわ。プラス。プラス。プラス。つまり私は彼だ。私は彼だ。彼も私しかいなくて彼も。彼が。彼は・・・きっと。全国民に言いたいわ。あなたのいいところはどこでしょう。わかりやすくプレゼンテーションして下さい。パワーポイントも使って良いので。つまんなかったら、貴方のノートパソコンをパカッと割って遠くからあんたの股間に投げつけて致命傷かのいきおいで心の傷を負わせて外に放り投げてやる。

また関係のないこと。

ビリっ

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