人と翼を失った天使
山ノ下 真吾
第1話 大天使ミカエル 聖人ジャンヌダルク
私が名はミカエル
神に仕え、武器と秤を扱う者の守護天使
戦や争い事があれば聖人となりて人間界へ赴き、ただしき道の者へ神の言葉を伝えに現れる
意志強し者よ、神の御加護を…
「アブディエル様、行って参ります。」
膝をつきその上に肘を置き、下を向きながら〝熾天使〟アブディエルとの別れの言葉を交わしていた。
「お行きなさい、天界のためにもあなたは人間界へ今行くべきなのです。」
普段瞳を閉じているアブディエルが薄目を開け、半ば強制ともとれる口調で言い放つ。
そして、ミカエルは二枚の白い翼を広げ一度空へ登りすぐさま翼を閉じ人間界へ下って行くのだった。
その時ミカエルはまだ知らなかった。
天界に戻れることができないとは…
西暦1424年、バル公領の村ドンレミ。当時のバル公領は、マース川西部がフランス領、マース川東部が神聖ローマ帝国領で、ドンレミはマース川西部のフランス領に属していた。フランス王家への素朴な忠誠心を持った村だった。
とある星空が無数もの帯に見える夜、ジャンヌダルクは苦悶に満ちた顔で独り歩いていた。
そこへ突然とも言えるタイミングで空から光の集合体が目の前を目掛けて降り注ぐ。
ジャンヌは目を閉じることもできず口をも閉じる事も状態で立ちすくんでしまった。
足は震え、体から力が抜けて行くのがわかる。しかし嫌な感じではないのだと直感で分かった。
(何なの、私はこのまま天へ召されるの?)
息を飲んだ瞬間だった、
〝我が主に忠誠を誓いし人の子よ、私の言葉を神の御言として聞き入れなさい〟
「っ、何これ。頭に直接言葉が入ってくるっ…」
ジャンヌは体験のしたことのない感覚と、その〝者〟への状況が把握ができず苦悶の表情を浮かべることしかできなかった。
その〝者〟の は片手に光と炎を纏った剣と片手に秤をもち背中には翼を二枚羽ばたかせ宙に浮いている。
そして更に語りかけるのだった。
〝人の子ジャンヌダルクよ、イングランド軍を駆逐して王太子をフランスへと連れて行きフランス王位に就かしめよ、それがジャンヌダルク、あなたの務めです。〟
この言葉が頭に入ってきた時には不思議と不快感は無く、自然に言葉を受け入れることができた。
「天使様、私にできますでしょうか。私は14の娘。武功も立てた事もない身。まして女で御座います。こんな私めに何ができましょう」
叶えられるものならそうしたい、しかしジャンヌにはやり遂げる自信とその想像が出来なかった。
〝いいえ、あなたは必ずやり遂げられる。
私があなたの守護としてついています。〟
「っ…私くしを守護して頂けるのですか?
そのような価値が私にあるのでしょうか」
〝大丈夫、私はあなたの側に常に居ます。
さあ、奮い立つのです人の子ジャンヌダルク。この世界を変える時が来たのです〟
ジャンヌは悩んだ、しかし苦悶はしなかった。何故なら自信がなく悩んだのではなく、すでにこの時、王太子をフランス王位に就かせる事で悩んでいたのだから。
「分かりました、天使様。神の御言必ず成し遂げましょう、そして天使様の加護を快く受けさせていただきます事大変嬉しく思います。」
〝我が名は大天使ミカエル、武器と秤を扱う者の守護者。あなたを聖人としうる器とし、ここに宣言する。我が加護受け給え〟
その瞬間ジャンヌは光に包まれ、天使の加護を受けた。目の前にはミカエルが持っていた光と炎を纏う剣、クラウ・ソラス。
〝これを持ちて私と戦うのです、来るべき日までそれはあなたに授けます。どうかものにできますよう祈っています。〟
そう言って、天界に戻ろうとした瞬間。
羽が一枚一枚、天に巻き上げられるように飛んで行くのだった。
「っ…!神よ、アブディエル様…!」
そして最後の一枚が天に昇った後だった
〝人の子ジャンヌダルク、我が同志ミカエルと共に生きなさい。そして世界を救い神に祈るのです、その時にあなたたちの力が必要となるでしょう。必ず、世界を救い天界に…〟
そう言い残すとどの問い掛けにも応える者は居なかった。
「…私はどうしたら良いのでしょうか…」
「ミカエル様、私の家へいらして下さい、そして私を強くして下さい!」
熱い目、そして怒りにも感じるその力強さにミカエルは我にかえる…
「そうですね、今から何を考えてもしょうがないでしょう。神がお決めになった事、アブディエル様も私を信じ人間界へ残したのだから、守護天使として役目を全うするまでです。
人の子、ジャンヌダルクあなたに力と知恵を授けます、私の手に触れなさい。」
何も躊躇する事なく手を伸ばすジャンヌ
「いきますよ、我が主よ我が認めし人の子に力と叡智を与え給え…」
しかし、何も起こる気配がない。
そう、ミカエルにはほとんどの魔法を制限されていたのだ。
「……、私にまず人間界の秩序を教えて頂けますか?」
ミカエルは切り替えが早かった、いや現実逃避をしたのだった…
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