人格の多い姉ちゃん
ここからは全てが終わった後の話だ。
全てというのは姉ちゃんの人格が増えてから僕が姉ちゃんを抱きしめて平和をこの身体全体で感じ取り、それをカインに茶化されたところまでだ。
つまり、僕らの長かったようで短かった物語のエピローグだ。僕らの物語はまだまだ続くけれど区切りをつけるにはここが丁度切れがいい。
前置きが長くなってしまった。それでは続きを話そう。
「やっぱり明日香の身体は居心地が良いな。
夏海ちゃん達の身体には無理矢理入っていたからね。
自分たちがいつの間にかはめていた指輪が自分たちと一茶を一時的につなぎとめていたらしいけど」
「姉ちゃん?」
姉ちゃんは珍しく深刻な顔をして『僕には』何も見えないグラウンドを見つめていた。
「魔王共の魂か。
よくこれだけの魂が明日香ちゃんの身体に詰まっていたものだ。
このままだと魔王たちの怨念がここに残りそうだし成仏させようか」
「それが良いと思う」
サーヤさんは魔王たちの魂を成仏させるために先の戦いで酷使したせいで気絶しているように眠る夏海の手から杖を取ろうとした。
「あの、明日香ちゃん?」
姉ちゃんは身体の所有権を自分に戻してサーヤさんの行動を封じ、ポケットから見覚えのある模様のハンカチを取り出した。
「姉ちゃん?」
「明日香?
明日香ちゃん?
えっ、何? みんな揃ってどうした?」
そういえば初見だったタイジュさん以外は嫌な予感を感じながらも姉ちゃんを止めることは出来なかった。
「魔王の名のもとに命ずる。闇を切り開く力によって浄化されし魔王の魂よ我が身体に宿りたまえ」
僕は目を閉じた。
カインも目を閉じた。
サーヤさんも目を閉じた。
並行世界の姉ちゃんも目を閉じた。
タイジュさんは混乱していた。
随分と久しぶりに光の柱が立ち上がり、目を閉じていても眩い光が先ほどまで闇に覆われかけていたこの世界を照らした。
「凄いでしょ、最高でしょ、天才でしょ
な、何が起こった。
私の計算では、私たちは復活することがないままこの世界から消えてなくなるはず。
それがなぜ再びこの女の中に」
腕を組んでどや顔を披露する姉ちゃんに僕はどんな言葉を伝えればいいか悩んだ挙句大きな溜息を吐いた。
「多くの魔王の力を使いこなしてこそ真の魔王となる。
相変わらず意味がわからねえよ。
魔王ならさっきみたいに明日香ちゃんの身体を支配して世界を滅ぼそうとしない?
その心配はいりません。私たちは先の戦闘で邪悪な力を浄化されてしまいました。
それに今の明日香様はオレ様たちの人格を受け入れている。
明日香様が世界を滅ぼそうと思わぬ限り私たちは力を最大限発揮できないわ」
「それなら良い、のかな?」
『人格の多い姉ちゃん』END
人格の多い姉ちゃん 姫川真 @HimekawaMakoto
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