さまよう闘士①

 超絶ムテキの闘士と呼ばれていた自分はある日を境に誰の目にも留まらない存在となってしまった。


 最初は全く気にすることなくというよりも全く気が付くことなく過ごしていた。何物をも圧倒してしまう力の前に人々は自分に恐れを抱き、誰一人として近づいてこようとはしなかったから。


 異変に気が付いたのは最後の会話から5日が経過してからだった。無意識のうちに5日間飲まず食わずの生活をしていたことにふと気が付いた自分は5日間栄養を摂っていないのにもかかわらず身体がピンピンしていることに異変を感じ、なぜ自分が何も口にしなくなったのか自分の記憶をたどってみた。


 ドンッという鈍い音。


 キャーという女性の甲高い悲鳴。


 コンクリートに打ち付ける雨粒の音。


 何かの書物で『聴覚は最後まで感覚が残る』と聞いたことがある。この音は自分が最後に聴いた音なのだろう。


 そう悟った途端に心の奥底の方からどう表現して良いのか分からない強い感情が溢れ出て来て、気付いて時にはココに居た。


「あぁ、そうだ。自分は死んだのか」


 自分を思い出すと同時に、自分の見て居た世界はガラスが叩き割られるように崩壊して大雨の振る路地の片隅に自分は放り出されていた。


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