一つ目の出会い 壱




 季節は春。

 場所は新都市、京都。

 日本古来からの趣がある町並みに、歩道には桜の木の道。桜の花は、あと数日もすれば開くだろうという感じだ。

 「うん、大丈夫。だっていつも任せてばっかりだもん。お手伝いさせて。日向と月光もいるし、何かあったらすぐに帰ってくるから。うん。それじゃあいってきます!」

 とある人気のない場所に建つ家から、少女の声が響く。

 玄関から飛び出した少女は、犬一匹と猫一匹を連れてどこかへ出かけていった。

 同時刻。

 「あー、そうだなあ。次は、市場の通りが見渡せる……この辺りの地域がいいんじゃないか? この辺りも見れるし、移動に時間はかかるけど人通りの多い市場の通りも見れる。一石二鳥だろ。あぁ、決まりだ」

 とある建物の屋上にて、少年を含む3人の少年少女が見ていた地図の場所をさして相談していた。

 話がまとまると、どうやらその場所へ向かっていったようだ。

 

 

 物語に重要なのは、4つの季節でとある少女が、少年と出会うことが何よりも大事だ。

 春の季節では、この少年と少女が大事な歯車。ヒーローとヒロインとなっていた。





一つ目の出会い 弐


 新都市、京都。

 その京都に一際、賑わっている場所がある。たくさんの桜の並木道の内、一筋の小さい川を挟んでいる道にその現況は並んでいた。

 路上市場である。

「うわぁ、すっごい人だかり! どうしてこんなにいつもより賑わってるんだろ……何かあるのな?」

 まさにその路上市場の末端にて、少女が一人。賑わいに圧倒されて足を止めていた。その右肩には、大きな買い物袋が。サイズは、少女の肩から腰より少し下あたりといった所。どうやら買い出しにきていたようだ。

「え〜と……確かこのメモの順番って端からちゃんと書いてあるんだったよね……」

 左手に持っていたメモを見つつ、何やらつぶやいている。

 その少女のそばには、雑種なのか柴犬のような顔立ちで、それにしては体格が秋田犬あきたいぬでけれども狼のような細さをした毛色が少し朱色に光ってるように見える白い犬が一匹ともう一匹は分かりやすく、足先と尻尾の先と胸が白い黒猫が一匹ついている。

 二匹とも少女から離れないように寄り添っている。見たところリードも何もつけていない。余程しつけられているのか。

 少女が人混みに圧倒され立ち止まったままでいると、そばにいたその犬が少女の手を鼻先でつつき、「クゥン」と一鳴き。

「あぁ、ごめん。そうだね。早くお買い物を済ませちゃわないとね」

 犬を撫でると、少女は再び人混みの方へと足を進める。

 市場を通りながら、魚、肉、果物等を買い物袋に入れ後は。

「えーっと、あとは……お野菜かな」

 言いながら少女は八百屋らしき店の前で立ち止まる。

「おや。お嬢ちゃんお使いか!」

 八百屋のおじさんが少女に話しかけてきた。

「一人か。偉いなあ!」

「いえ、そんなことないです。お兄ちゃんが頑張っているから、私もって」

「そうなのか! いやあ、それでもお嬢ちゃん偉いぞ?」

「えと、ありがとう……ございます。あ、これお願いします」

「はいよ!」

 メモに書いてあった野菜をおじさんに手渡して、ビニール袋にいれてもらう間にお金を用意する。

「ん?」

 お金を渡す際に、そばにいた犬がまた鼻先でつついていた。

「待って。ありがとうございます。また来ますね」

 おじさんにお礼と一言添えた後、犬の先導で少し来た道を戻り、ちょうど八百屋さんの隣。街の情報などが貼ってある掲示板の前に連れられる。着いたところで「これを見ろ」とでもいうように一吠え。

「ん? なに……あ! そっか、だからこの人だかりだったのね! えへへ、そっか〜」

 一つのポスターを見るなり、嬉しそうに顔をほころばせ、買い物袋を抱きしめて右へ左へと体を揺らしている。

 少女が見ていたポスターとは――


――三月三日  春礼祭しゅんれいさい! 春姫しゅんきを称えるお祭りが今年も開催!――


 と書いてある。

 この京都で何年も前から春になると祭りが行われている。これは「春姫しゅんき」という者を称え、春を呼び込む祭りである。

「お買い物終わったし、そろそろ帰ろっか。お兄ちゃんが待ってるからね」

 少女はそう言って歩き出す。

「楽しみだなあ。祭り見なくちゃ!」

 そう言う少女の眼が、一瞬だけ緑色に輝いた気がした。



同時刻。別の場所では。

「ななな! 誰だと思うよ? 今年はうちの生徒が選ばれるって話だぜ!? 楽しみだよな、春礼祭しゅんれいさい!」

「ただの噂だろ? 本当か分かんないだろ」

「いやいやいや! 絶対選ばれるぜ! 少なくとも俺はそう、確信してる!」

「またいつもの勘か。当たったことないだろ?」

 少女がいた通り、市場の喧騒がギリギリ聞こえて、市場が見える建物のフェンスの無い屋上に学生服のような服装をした少年が二人。市場を眺めていた。

「そうだっけか?」

「当たったとしても、小さい事だっただろ」

「でも当たってんじゃん」

「ちょっとかする程度だろ」

 屋上に立っている学生達は、白地に緑色の刺繍で『帝国十字軍』と書かれている腕章を左腕につけている。

 彼等の名前は、南雲陽也なぐもはるや一条薫いちじょうかおる

 黒髪を残した金髪にアシンメトリーの髪型をしていて、俗に言うヤンキー座りで市場を眺めて自分の勘の話をしているのが一条薫。

 薫とは逆に立って会話しているのが南雲陽也。普通に黒髪に、普通の髪型の平凡な男の子。

 二人の関係は幼馴染み。ただいま街をパトロール中。

「二人とも。しゃべってないでしっかり見張る!」

「やってるよー」

 二人がいる所とは反対側からやってきたのは同じ年頃の女の子。

 名前を橘朱奈たちばなあすな。胸まである髪を2つ結びにしている。彼女も陽也と薫の幼馴染みである。

 彼等は腕章にあるように普通の学生ではない。

 『帝国十字軍』とは、人間が自分の守護霊を扱って武器にしたりできる人間の集まりで、そのほとんどは年齢が15歳くらいの神社や、寺の跡取り達である。その十字軍とは守護霊を扱えない一般人をとある脅威から守るために作られた組織である。

 その脅威というのが、

「いつ《影》が出現するのか分からないんだよ?」

 《影》というものである。

 かつてこの日本には東京という都市があった。今は隔離されていて、旧都市とされているが……。その《影》というのは、東京を隔離してから現れるようになったバケモノで、人間の影が意志を持ち、本人を覆ってうまれる。その出現率は不規則。前触れもなく現れる。

 だが、《影》となった者を見抜く方法が一つだけある。それは、『《影》となったものには影がない』ということ。

 その方法だけで《影》を特定し、捕獲する。その役目を与えられているのが彼等『帝国十字軍』である。

「分かってるよ、朱奈。何度も言わなくても耳にタコだ」

「もう少し気を張ってって言ってるの」

 十字軍は、《影》を探しに行くのに三人から五人の編成で行くことになっている。

 ちなみに陽也達は高校二年生。

 《影》捕縛に関してはまだまだ若手である。

「なー朱奈。今回は誰が姫役に選ばれると思うよ!」

 先程からマイペースに祭りの主役の話をしている薫は朱奈の様子に気づかずにに言いながら立ち上がる。

「薫。《影》を探しているんだから、今はその話は置いておいて」

「あ……悪ぃ」

「ほんとにしっかりしてよ。ここ最近出現率少なくって、更に遭遇率低いんだから」

「あぁ、場所移るか」

「そうね。移動しよっか。行こ!」

 そう話し合ったあと、三人は屋上から屋上へと飛び移って別の場所へと向かっていった。

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