出会い
第1話 出会い 01
『
世界は平穏を取り戻していた。
最高戦力の二人が相討ちしたことで各々についていた人達も、自然と解散していった。どうして何の諍いもなく解散したのかは未だに不明である。
しかし解散したとはいえ、剣術は未だに必要とされている。
人々の争い。
諍い。
かつてのような大戦はないが、多少なりとも発生している。
それを抑えるのも、また剣術であった。
しかしながら『
人々は安心で暮らし、暴力が支配する世界は終わりを告げた。
それを象徴するかのように存在している村――アラベス。
牧歌的な雰囲気も持ちつつも、テントを張った露天商が声を張り上げて物を売る活気ある姿は正に市場というもののあり方を体現していた。天気が良いのも相まって非常に温度が高い錯覚さえしてしまう程である。またテント以外で木造の建造物として店を構えている人々も負けじと呼び込みをしており、昼間であるから良いモノの夜であったら眠れないこと間違いない程の、良い意味で騒々しい町である。
そんな騒がしい町並みから少し外れた茶屋で、みたらし団子を口にしている一人の男性がいた。
ぼさぼさの黒髪を後ろで一つ束ねた、無精ひげを生やした男性。年端は二十後半から三十前半といったところではあるが、とろんとした眠そうな目が印象的である。恰好はというと上には薄い生地の若草色の着物を羽織り、下は足をまるごと覆い隠す様なぶかぶかの奇妙な下袴を身につけている。
そんな彼は団子を美味しそうにもう一つ撮みながら、茶屋の店主である老婆に笑い掛ける。
「いやはや、団子は美味しいしお茶も美味しい。加えて女将さんも美人ときた。この茶屋がお客が大量に押し寄せてこないことが分からないよ」
「あらあらお世辞言っちゃってー、もうー。お団子サービスしちゃう」
「ありがとうございます。綺麗な貴婦人」
「おほほほほ。また褒めちゃってもう。嬉しいこといってもあたしゃ旦那一筋だよ」
「そりゃ残念です。旦那さんがいなかったら狙っていましたよ。……ん?」
そこで男性は視線を自分の足元に向け、上げていた口角を下げる。
「おや、どうしたんだい?」
「んー、いやー、ちょっと勘が働きましてねえ」
「勘?」
「そうなのですよ。俺の勘は良く当たるんですよ。きっとこれ以上茶屋にいたら、奥様に惚れこんでしまうってことでしょうね」
そんなセリフを吐きながら急いでお茶を飲みほし、彼は食事代を老婆の手の上に載せる。
「ご馳走様でした。本当に美味しかったです」
「いえいえ。またお越しをお待ちしています」
ご機嫌を声に乗せて頭を下げる老婆に軽く手を振って、
「……さて、次も可愛い女子であればいいけれどね。そこまでは分かんないんだよな」
彼は町はずれの裏路地の方へと、その長すぎる下袴を引き摺りながら歩き出していった。
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