おっさん、危うく通報されそうになったんだけど!
取れねー!
どうやっても取れねー!
石鹸!
サラダ油!
オリーブオイル!
〇RC556!
〇ォッシュ〇ボリューション21!
なに使っても、なに塗っても指輪が抜けねー。
どうなってるんだ?
指輪ってこんなに抜けない物なのか?
「なにやってるの? おっさん?」
「何って指輪取ろうとしてるんだ」
「大変そうだね」
台所で指輪と格闘していると、背後から女の子の声がした。
振り向いてみると、すぐ後ろにサバイバルな感じの服を着た娘が立っている。
しかも若い。
どう見ても女子高生だ。
「……って、誰だよお前!」
なんで、女子高生ぐらいの歳の女の子がここにいる?
しかもどう見ても日本人離れした顔してる!
目が青いし!
おまけに金髪だし!
耳がとんがってるし!
まるでエルフ。
あり得ない見た目の女の子が立っていた。
その女の子が説教するように口を開く。
「お前って……こんなかわいい女の子に向かって、お前なんて言うのは酷いぞ! おっさん!」
「いや、勝手に人の家に入ってくる方が酷いだろ! 出ていけよ!」
「ここ、おっさんの家だったの?」
娘はそう言うと辺りを見回す。
「どうりで家具とかいろいろ揃ってる訳だ」
「当たり前だろ。ここが家じゃなくウサギ小屋なんて言ったら殴るぞ」
「誰もそんなこと言ってないって。さ、客を立たせてないでなんか食わしてくれよ。昨日リュックを落としちゃって食べ物を何も持ってないんだ。もう、お腹ペコペコで死にそうなんだ。早く僕に何か作ってくれよ」
娘はさも当たり前のように、ダイニングの食卓の椅子に勝手に座る。
「客ってなんだよ」
「ここ宿屋だろ?」
「宿屋じゃねーよ」
「じゃあ食堂か?」
「ちげーよ!」
「マジ?」
「だから、お前には用は無いんだ。とっとと出て行ってくれ」
こんな娘を部屋に招き入れたら、このご時世、あらぬ疑いをかけられて警察のご厄介になって人生詰む。
俺は娘の両肩を掴むと椅子から無理やり立たせて、手を引いて玄関に引きずっていく。
俺が玄関から追い出そうとしているのが解ると、娘が突然泣き崩れた。
「酷いよおっさん! 必死な思いして、ボス部屋の前の伝説の宿屋に辿り着いたと思ったのに! 助かったと思って大喜びしてたら、追い出すなんて! このまま追い出されたら、お腹空いてるから、きっとボスに叩きのめされて、戦う前に死んじゃうぞ! こんなかわいい女の子が死んでも、おっさんは何もかんじないのか? 思わないのか? 思わないんだろ? そうだろ? この鬼畜め!」
この娘、なんか訳わからないことを喚いている。
ダンジョンだとか、ボスだとかわめいてて、きっと頭おかしい系の娘だ。
間違いなくメンヘラ。
こんな奴とは関わらない方がいい。
きっと、乱暴されたとかある事無い事言って、警察に駆け込まれて俺の人生が詰む。
俺は娘の首根っこを捕まえ、玄関のドアを開けて、娘を外に放り出した。
娘も必死だ。
俺がドアを閉めようとすると、娘はドアに靴を強引に挟み込んで、無理やり閉じられないようにする。
どこぞの悪質セールスマン並にしつこい。
「おねがいだよ! おっさん! いれてよ! 追い出さないでくれよ! おっさん! あけてー!」
「いいや、そんなわけにもいかないから! 俺はまだ、犯罪者になりたくねーし!」
俺が靴を蹴り出そうとすると、娘は靴をねじ込む力を強める。
娘が大声で騒ぐので隣近所の住民が様子を見に来た。
どうやら隣の口うるさいおばさんの様だ。
おばさんがドアの僅かな隙間から俺の顔を窺う。
「ど、どうかされたんでざますか?」
「いえ、なんでもないです」
だが、娘はおばさんに必死な形相をして訴えた。
「このおっさん、もう用は無いって、部屋から追い出すんだよ!」
「ほんとざますか? 出すもの出してすっきりしたら、女の子迄追い出したんざますね。本当にここの住人の人がそんなことしたんざますか?」
「ほんとだよ」
「ちがっ! 俺、そんなことしてないし!」
「じゃあ、入れてよ!」
「これは事件の臭いが……縁交かしら? 誘拐かしら? とりあえず今すぐ警察に電話し――」
「ちょっ! まって! 待ってくれ! これ親戚の子だから! お仕置きで外に出してただけだから! 入れる! 入れるから! 警察には電話しないで!」
俺はドアを開けて娘を引っ張りこむように部屋に入れた。
娘はしたり顔をしている。
この娘、とんでもない奴だ。
しかもよく見ると全身泥だらけだし。
「お前、何処から来たんだよ」
「ダンジョンだよ」
「むう……質問の仕方が悪かったか。どこからこの部屋に来たんだ?」
「そこ」
娘はクローゼットを指さした。
あー、洞窟からか……。
神殿の様な部屋が有っておかしいとは思ったんだが、やっぱりダンジョンだったか……。
って、ダンジョンてなんだよ!
なんで、俺の部屋にダンジョンがつながってるんだよ!
訳わからないんだけど!
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