雪の降る夜空の下で。

-エピローグ-

(……寒い)

まともな防寒着は一つもなく、家を出てくる直前に引っ張ってきたコートは全く役に立たない。普段移動の際は車を出してもらっているので、私は寒さに無縁だというのに。これなら執事の一人でも連れてくるべきだった。

そう後悔しながら、震える体を両手で抱きしめる。行き交う人々は、誰一人私に目をとめない。寒さの中孤独を噛み締めていると、目の前に手袋が差し出された。黒い革に似た生地で男物の手袋。私は手袋を凝視してから顔を見上げた。

金髪の短い髪に、青空の澄んだ瞳。整った顔立ちで、白い肌の男性。それこそ、雪のように白く見えた。

「君、大丈夫?」

心配そうに私を覗く顔に、涙が溢れそうになった。

雪の降る夜、この小さな世界の片隅で、彼がちっぽけな私を見つけてくれた。




思い返せば、これが全ての始まりだった。

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