第4話 もう1回 どら焼きの日

 どら焼きを買って来れない日が年に何回かある。

 僕が出張に行った日、和美さんが出かけていない日、ちょっと人里離れて山奥とかに旅行しに行った日もどら焼きは買えなかった。

 それ以外の日はどら焼きを買っている。一緒に旅行に行ってもどこかでどら焼きを買っている。一緒にいるのにいつ買うか、どこで買っているかは内緒。すぐに分かっちゃうんだけどね。

 でもこれだけは僕からの特別な贈り物にしたいんだ。そこはちょっと僕のエゴなのかもしれない。


 前にホットケーキでどら焼きっぽいの作った時、美味しそうに食べていた。

 だからもう1回挑戦して見たくて、和美さんが留守の間にキッチンでどら焼きを作る練習をしてみた。

 カステラの生地も、ホットケーキの生地も、蒸しパンみたいものも、簡単に作れて美味しいのはどれだろう? 料理のレシピをいくつも見て、何個も作ってみたけれどホットケーキが一番簡単みたい。ちょっと卵と砂糖を多めしたり、蜂蜜を入れるとカステラっぽいかな? でも焼くときに油断してるとすぐに焦げちゃう。ん~、世の中の和菓子屋さん恐るべし。


 君は帰ってきてすぐに気づいたね

「どら焼き作ったでしょ?」

 え? なんでわかるの? どっかで見てた?

 料理に使った道具が動いたり、甘い香りが部屋に充満してたんだって。

 僕はそっと比較的出来の良かったどら焼きを1個差し出す。

 一口食べて、和美さんが笑顔になると僕はほっとする。

 こんなドキドキは久しぶり。

 仕事で成功するかよりも緊張したかもしれない。


「今度は一緒につくろうね」

 和美さんは食べ終わった後にそう言った。

 二人で話し合って、毎月第1土曜日は『手作りどら焼きの日』って事になった。

 月一ならそんなに大変じゃないよね。

 和美さんは僕のことを気遣ってくれてるのかな。

 次はどんなどら焼きを作ろうか。

 毎月1回、どら焼きを買ってこない日が増えました。 

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