第4話「賢者は昔も若かった」

「くそう。なんでこの世界にいるんだよ……前の世界をせっかく無難にしのぎ切ったって言うのに!!」

 賢者ラーカイルこと中村総一郎、愛称ソーちゃんは苛立ち加減で机を叩く。

「転生魔法で逃げた先にもいるなんて……なっんてこった!」

 賢者ラーカイルは机をもう一度叩こうとしたが、祖母がそろそろ帰宅する時間なのでグッと堪える。

 邪神様と賢者ラーカイルの出会いは前回の邪神討伐まで遡る。

 天界からのお小言にも『面倒なことを俺に押し付けてるくせに文句言うな』と、どこ吹く風の様子の邪神様はその時もお気楽な気分で地上を見ていた。……そして逸材を見つける。

「逸材だ……。あの『全く意味のわからないポーズ』! 天才が居る!」

 ワナワナと震える邪神様。今までの子達(勇者です)は技名を叫んではいたが、ポーズなどはつけていなかった。

「……呪文詠唱とか……画期的な発明だ!!」

 賢者ラーカイルが生み出した呪文は言葉で魔法力を制御し、魔法の成功確率を向上させた。画期的な発明である。……まぁ、神々からすると誤差の範疇で意味のない事なのだが。

「発射方向を示すだけでいいのに! あの技で……3回も決めポーズからの……意味のない反り! そしてドヤ顔!! 完璧だ。完璧な天才だ。一度お話ししたい!!!」

 ウキウキ・ワクワクの邪神様はそれから彼の行動をチェックし始める。技を見ては呪文やポーズをノートに記録する。無論、1回だけの技もあるのでそれは先史文明が残した記録装置を使い何度も何度も見直し、自分たちのデータとして記録する。芸術に投資は惜しまない。この辺りは高位の神様パワーを本領発揮である。劣化しない黒歴史。プライスレス。

 そんなこんなで邪神様が邪神様歴の中でも1・2を争うほど楽しんでいた。

 そして邪神様が楽しんでいる中、賢者ラーカイルと勇者たちは艱難辛苦を乗り越え(裏で邪神が爆笑&記録していることを知らず)邪神神殿にたどり着く。

「うおおおら!!!!!!!! クソ邪神どこに居やがる!!!!!!」

 怒りで真っ赤に染まった賢者ラーカイルが邪神様の寝室に殴り込んできた。

「あ、いらっしゃい。神聖龍神浄化波動術の人」

 いい笑顔で賢者ラーカイルを迎える邪神様。

 今しがた見ていた先日邪神神殿近くの村を救った動画につられ、邪神様は賢者ラーカイルを決めポーズで迎える。

「!!!!!!」

 声にならない声を上げる賢者。

 御愁傷様である。

 ……しかしここで邪神様は賢者ラーカイルの変化に気が付く。

 ……賢者ラーカイルの小さな変化に気づいた邪神様は、微笑みを浮かべながら言った。

「……あ、完成度低かった? ごめん。心の片隅にあるプライドが邪魔しちゃってやりきれなかったの……」

 てへ、と擬音を入れながら邪神様は頭をかく。同時に叩き込まれる賢者ラーカイルの蹴り。

 しかしその蹴りを邪神様は華麗にかわす……。そして……。

「はい、そこで決め! さすが賢者ラーカイル!」

 なお、本心である。

「俺ならできない……。攻撃をかわされたのに決まったがごとく振る舞う。……まさに、スタイリッシュ!」

 邪神様、本気のお褒め、である。だが賢者ラーカイルは……。

「お前は殺す! あと、なんだこの神殿は!!!」

「おお、気付いたか! 『一万年は滅びません!』と建築の神が太鼓判! 俺も微力ながら協力(少しドヤ顔)の『邪神神殿(ぼそ……賢者ラーカイル記念館)』だ! すばらしいだろう!!」

「おまっ! 邪神神殿の後ろに何かつけてるだろ!! てか、俺たちが神殿に入ったタイミングを見計らって入り口で何か工事してたろ! 馬鹿でかく掲げてた『ようこそ! 邪神神殿』の看板あたりから音がしてたぞ!」

 勇者一行は背後の気配を感じつつも、『ただの工事』であることを現場監督のオークとサポートの人間に確認している。……魔物と人間が邪神神殿で工事……ものすごい違和感である。

「それよりも……通路に張り出されたあの石板はなんだ!!!!!」

 邪神神殿では10m間隔で邪神特製の『秘技ラーカイルのポーズ108選!』が飾られている。

「……108個に絞るのに絞るの大変だった!」

 邪神様は胸を張る。

「やっぱりおまえかーーーーーー! てめえがおかしなことするから、石板を拭き掃除してたグレートデーモンに『ファンです。握手して下さい』ってキラキラした瞳で言われたわ!」

 実話である。その後差し出された『賢者ラーカイル、その美技』という雑誌(バイブル)に死んだ目をしながらサインする賢者ラーカイルがいた。

 尚、グレートデーモン1体で大陸1つを沈めるという逸話があるほどのいわゆる『最強クラス』の魔物である。その魔物がこの邪神神殿では100名が勤務している。(本体は別世界におり、アバターでの勤務である)

「しかも、なんだあの魔界飛脚便って! 戦う前に本を丁寧に梱包して送ってたぞ! 『貴重品なのでよろしくお願いします』って丁寧に頭を下げるグレートデーモンって!」

「その子ラッキーだったね!」

「戦いづらいわ!!! 攻撃よりポーズ優先で、しかも私の方をチラチラ気にしながら戦うって、なめとんのか!!!」

 邪神様が巻き起こした魔界でのラーカイル人気はガチである。

 通常の邪神様付地上お仕事、最終ダンジョン勤務は人気がなかった。実体を地上に送るのではなく、仮の体で勤務するとはいえ悪役なのだから気分は良くない。だから人気がないのだが……。この時は違った。邪神様が人材募集と趣味の共有を目的に魔界で起こした『賢者ラーカイル、その美技』に関するブームのおかげで、最終ダンジョン勤務は大人気となりかなりの倍率になった。

「会うやつ、会うやつ、全員がサイン求めてきやがって!!」

 賢者ラーカイルは知らない。彼らは別な意味で待ち構えていたことを。そして先ほどのグレートデーモンのような好意を隠さない者も居れば、きちんと悪役をこなすものもいた(もちろん、事前に握手とサインはデフォ。本日邪神神殿勤務の飛脚さん、大忙しである)。

「見ろ! オークに豚汁を振舞われた勇者の姿を!」

 聖剣を見つめながら『豚汁美味しかった。美味しかった。……オークが作ってるのに……ブタさんと親戚じゃないの? 表情がお母さんみたいだったよ……私、ここに何しにきたんだろう……』と独り言をブツブツと呟いていた。

 尚、オークさんとは食事の片付けを終わらせて戦った。

 なんと最強のゴットオークだったらしくめちゃくちゃな強さだったとか……。

「ああ、料理上手の小梅さんね。塩っ気の強い携帯食料しか食べてない君たちの健康を心配してたんだよね……彼女。豚汁の他にもいろいろ田舎料理出ていたでしょw」

「小梅さん!? 意外と可愛らしい名前! そして、お母さん? むしろおばあちゃん???」

「敵の健康を心配するな! 徹して悪役!!」

 邪神様は納得するように何度も頷いている。賢者ラーカイルはツッコミを入れる。そして孤児で家族の愛を知らずに育った勇者エミルは『おばあちゃん……』と呟いて、儚げな笑顔である。つい申し訳ない気持ちなった邪神様は『現世に来てるのは仮の体だから気にしなくていいよ』と勇者をなだめる。『そのネタバレ、1人目で聞いたわ!!!』と賢者ラーカイルが突っ込みをいれる伝統芸であった。混乱の極みである。

「……」

「……」

 真面目に向き直る賢者ラーカイル。つられて邪神様も真面目に相対する。

「……お前の目的は何だ?」

「……賢者ラーカイルのポーズ、その収集だ!!!」

 『もうここまでんバレたのであれば開き直りだ!』とばかりに胸を張る邪神様。その表情は誇らし気である。

「この糞邪神が!!!!!!!! 喰らえ、究極魔法!!! 『暗き闇より這い出でよ! 正義と悪を飲み込む原初の炎!!』 黒炎(ダークネスファイア)!!!」

「あ、ほい。ねぇねぇ、今の動画とった? 新作だよね? やった!」

 賢者ラーカイルが編み出した対邪神様用の秘術、渾身の魔法は邪神様にまるで緩く投げつけられたボールのように軽く受け止められた。そして邪神様は部屋の端に控えていた『魔人の女性』に嬉々として声をかける。

「……はい。邪神様♪」

 なお、魔人の女性は黒髪ストレートの清楚な雰囲気を持つ人である。そして邪神様に向ける笑顔は恋する乙女のそれであった。

 そして……残念なことに『賢者ラーカイル、一目惚れ』の瞬間であった。

「邪神様。そろそろ……」

 そう魔人の女性は邪神様に告げて、勇者たちに視線を向ける。

「ああ、封印の時間か。今回は楽しい時間であった……」

「御意」

「こぉら!!!!!!!!!!!! てめぇ主体で語ってんじゃねーよ。封印術持ってるの私だよ? そもそも何『お仕事終わり』感を出してやがる! 定時に帰りたいのに粘る嫌な客を見るような顔してるんじゃない! お前のせいで、どれだけの罪無き民が死んだと思っている!!!」

 賢者ラーカイルの正論。

「19,087名です」

「うん、うん。で、俺達が来る前に、戦争で死んだ人数は?」

「204,587名です」

 思わず『数の問題じゃない!』とか感情的に叫びそうになった賢者だが、邪神様の正論に沈黙。

「勇者よ、賢者よ、その仲間たちよ。茶番と悲観することなかれ……。汝らが人を繋いだ。その結果、人は互いに手を取り合った。汝らは人類を自滅の道から救ったのだ。汝らは真に勇気ある者たちである。我、邪神にして勇気の神は貴様らを称賛しよう。その勇気を誇るがいい。そして賢者ラーカイル……後でサイン頂戴」

 お仕事モードの邪神様。しかし賢者ラーカイルは邪神様が放った最後の言葉に口の端をひくつかせている。だが賢者ラーカイルは一旦邪神様を無視して『サイン、欲しいですか?』と魔人の女性に視線を投げかける。

「あ、私は結構です。あと、あの間抜けなポーズにも魅力を感じませんし……あ、すみません……」

 気まずくなる真面目な魔人ちゃんでした……。

 邪神様を見つめると乙女になる魔人ちゃん。その魔人ちゃんが賢者を見る目はとても冷たかったという。……魔人ちゃん的に賢者は邪神様を虜にする恋敵に見られていたのかもしれない。

 ……救世の9人。そのサブリーダとして後世に語り継がれる賢者ラーカイル。その失恋の瞬間であった。

「アミラちゃん。俺だとサインもらえそうにないから代わりに貰ってきてくれない?」

「……はぁ、本当にしょうがないですね……。でもそんなところがくすぐられます♪ ……承知しました。……そっ、その代わりに邪神様。賢者ラーカイルのサインもらってきたら……ぎゅ……ギュッと、だっ抱きしめて……もらえますか?」

「いいよー」

 首まで真っ赤にして上目遣いで、消え入りそうな声で言う魔人ちゃんことアミラちゃん。軽い邪神様の返答にも飛び上がらんばかりに嬉しそうである。

「ということで、丁寧にお願いします」

 一転冷たい態度で色紙を渡される賢者ラーカイル。撃沈である。その後ろで開き直った勇者一行はその様子に爆笑している。もはや戦う空気ではない。

「あ、ちゃんと『敬愛する邪神様へ』も入れてください」

「……」

 『敬愛』は入れたくないなぁ……っと思いながらも賢者ラーカイルはサインを書き上げる。惚れた弱みである……。魔人の女性にサインを渡すと会釈をされる。ちょっとうれしくなる賢者ラーカイル。だが直後振り返りスキップ踏みながら邪神様へ向かう魔人ちゃんことアミラちゃんが浮かべる期待の眼差しと、恥じらいの表情に賢者ラーカイルは胸がチクチクと痛かった。

「ありがとう!」

 邪神様は喜びのあまり魔人の女性をギュッ抱きしめ、頭ポンポンを追加した。魔人ちゃんことアミラちゃんは脳天から煙を出さん勢いで赤くなっている。初々しい。これもまた賢者ラーカイルの胸をえぐる。

「じゃ、封印されるのでみんなには撤収命令を、あとサインゲットできなかった人にはこのサインをコピーして渡してあげて~。オリジナルは宝物庫にお願いしますm(__)m」

 邪神様からサインを渡された魔人の女性は名残惜しそうに邪神様から離れ、寂しそうな表情で消えた。

「賢者ラーカイル……惚れた?」

 邪神様は空気を読まない。

「……くっくっくっくっく。もう限界だよ。お前は封印じゃ生ぬるい!! 存在消去してやる! 死ね死ね死ね!!!!!!!!!!!!!!!!」

 呪文は省略され、封印術からの崩壊術式が発動する。

「ああ、賢者ラーカイルの封印術『邪神様大好き♪でも死ね死ね術』で封印される~~~~」

 邪神様(パジャマver)が枕を抱えながら言う。ちなみに術は効いていない。

「じゃ、寝ます(封印されます)。あ、賢者ラーカイル、分身を残していくから。アミラちゃんと2人でちゃんと君の人生見守り(観察)ます。だから(記念館の維持管理運営)諸々安心してね……じゃ! スタイリッシュ! ZZZ……」

「あ?」

「おやす~」

 『み』を言い切る前に邪神様は封印され、光と共に消えた。

 賢者ラーカイルは後々邪神様の言葉の意味を知る。尚、賢者ラーカイルは死ぬまで邪神様(分身)からのスタイリッシュ通知表と魔界でのブーム情報、たまに魔人ちゃんことアミラちゃんとのラブラブ日記が送られてくるのだった。

 生涯独身を貫いた(意味深)賢者ラーカイルはにとっては、まさに悪魔の所業であったと言う……。

「あの野郎……」

 『せっかくハーレムパーティだったのに……』とベットを叩く賢者ラーカイル(童貞継続中)。ほぼ毎週届くスタイリッシュ通知表。どこで作られたのか賢者ラーカイルファンクラブ。彼らの聖地、賢者ラーカイル記念館。いつのまにか上半身裸の筋肉おじさん(信者)に囲まれ生活する賢者ラーカイル。一般市民からも『賢者はそういう趣味の方でしたか(察し)』といういわれる生活。

「今世こそ地味に……愛する人を見つけて生きるんだ!」

 上半身を起こし、総一郎は髪をかきあげる。それこそファサーっと。

 ……本人の意思と魂に刻まれた習性が一致していないようである。


 そして……総一郎が邪神と遭遇し、1ヶ月が過ぎた……。

 通っている小学校で催された運動会で総一郎は油断していた。

 祖母の冴子が経営する駄菓子屋によりつかなければ……と、回避策をとり総一郎は邪神様に遭遇しない穏やかな日常を送っていた。

 だが……。

「総一郎ー! 頑張りなー!」

 駄菓子屋主人の冴子さんとその横に飲み物片手に観戦する魔王と邪神がそこにいた。

 親戚のおじさんポジションでの参加であった。

(なんで邪神がいるんだよ! あ、ビール飲んでやがる! 魔法でスポーツドリンクに見えるようにしてる! 大人汚い……汚い大人だ!)

 そんな邪神様の様子にイライラを募らせながら、賢者ラーカイルこと、総一郎はリレーのアンカーとして位置に着く、魔法は使わない。本の能力で十分に勝てる。賢者の組は最下位だが、幸いそんなに差がついていなかった。

 賢者は今世の子供として責任感に胸が躍っていた。

 そして動き始め、バトンを……。

「がんばれ! だーくぶれすどらごん!!」

 受け取った後に盛大にこけた……。

 土に汚れた顔で邪神を睨む。

 チーズ鱈を咥え、ケタケタと楽しそうにスポーツドリンク(ビール)を煽っている。

 賢者は立ちあがるとバトンを拾い上げ走り出す。

 もう、相当な差がついてしまった。普通に考えて勝てそうにない。

 なので賢者は魔法を使った。

 だが次の瞬間魔法は解ける。勿論邪神のせいだ。何故魔法発動を許したのか。賢者はその意味を直ぐに知る。加速した足から急激に力が失われる。つまり、足がもつれて倒れる。

「おお、転び方も……スタイリッシュ!」

(あいつ、今度こそ絶対殺す!!!)

 結局。総一郎は今世も邪神様を意識しながら生活するはめになりそうなのであった。



 


 

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