■五月十四日(木) 博之
「次は日曜日だからね! 絶対に来てよ!!」
美佐が博之の横で大きな声を出す。
JRの
博之はため息をついた。いつもの作業着服。バイト先のパチンコ店に朝一番で入って、さっきまで働いていた。美佐も昼間はファーストフードバイトのはずだ。
「
「何で夏凛に話しちゃったかなー! そりゃ、あの子は意外とお堅いから怒るに決まってんじゃん。黙ってやって、それで結果を出してから報告すれば、あの子だって納得してくれるのに」
左手で長い茶髪をかきあげて、美佐がじろっと博之を睨む。
「ビールお待ち!」
店員が二人の前に中ジョッキを置く。
「ま、乾杯。仕事お疲れ。……夏凛のせいで来ないとか言ったらあたし泣くよ。プラスアルファがいいっていうのは博之も判ってんじゃん? 人が増えたらお小遣いだって増えるし、悪い話じゃないと思うのよ」
「俺だってそう思うよ! だけど夏凛が……」
「何よ、おまえあいつの子分なの!? 夏凛、夏凛って、いくら親しいからって関係ないじゃん」
「だけど夏凛が怒るんだよー」
半泣きで博之が言う。
美佐はため息をついた。
「博之が夏凛に頭上がらないのは判ってるけどさぁ」
「判ってるんだったら、美佐から説得してくれよー。俺じゃ無理だよ。夏凛頭いいから、俺じゃ説得できねえよ」
博之が頼むと、美佐は困った顔になった。
「だってあたし、あの子に嫌われてんじゃん。あたしが言ったら何だってあの子は反対するよ」
「えー、意外と夏凛、そういうところはちゃんとしてるっていうか、怒ってるときはダメだけど、落ち着いてるときは話聞いてくれるよ?」
「だから落ち着いてるときにおまえが説得しろよ。兄貴分だろ?」
「だから俺じゃ無理だって。あいつ怒ると怖いんだよ」
「……えーそっち?」
美佐はあきれて左ひじをカウンターについた。それから煙草を咥える。
「あれ、美佐、煙草やめたんじゃなかったのか?」
「ストレスたまるんだよー。やっぱやめられねー。しょうがないじゃん、イライラすることいっぱいあるんだもん」
美佐が言い募る。博之は頷いた。
「判る。世の中、いい人もいるけど、ヤな奴もいっぱいいるよなー」
「……そんな単純な話でもないけど、まあそうか」
美佐が苦笑いする。それから美佐は博之の目を覗き込んだ。
「今のパチンコ店、けっこう長いよね」
「ああ、二年半くらいかな」
「がんばってんじゃん。偉いよ、博之。今日はあたしがおごる!」
「マジ?! ありがとう! 俺、次の日曜日は絶対行く!」
「早めに来て、他の会員さんとも話しなよ。いろんな人と仲良くなってくれれば、また道も開けるよ」
「……よく判んないけど、まあ、こないだ行かなかったし、次は早めに行くよ」
博之が言うと、美佐は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。待ってる。……今日は飲めよ! おごりだよ」
美佐の言葉に、博之はメニューを手に、次々と注文を決めていった。
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