最後の初恋

さがの みはる

第1話

一目惚れだった。

雷に打たれた気分を私が本当に味わったのは後にも先にもこの時だけ。

佐藤千織、26歳の春。

あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。


仕事には5月に復帰したばかり。休職する前の面々は1年もしたら、殆どが一掃されていた。

変わらないのは古びた支店。決まり切った業務。

証券会社の朝は早い。

支店のカーテンを開けたその時、営業部の扉からその彼は出てきた。


思わず私は作業の手を止めポカンと彼をみつめた。

私が彼を直視したまま動けないのに、彼は気づいていない。

私の存在なんか、気にもとめず、彼は事務員と話して営業部に戻っていった。


時が止まって、私は我にかえり、あたかも当然のように営業部へ…

確信があった。

彼のオーラ、絶対この支店のトップセールスだと…

成績が並んだホワイトボード一番上の名前を急いで確認する。

「田代」

たしろ…さん。


急に思い出し赤面した。復帰初日、適当な格好と鏡もみていない顔に。

復帰したら辞めようと思っていた証券会社の店頭職。

それが、その日から、彼に会いたくて、彼と話したくて、私は会社に来るようになる。

私が休職した理由、それは、育児休暇だったのだけれど…

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